特色は、内容が多岐に及び、七宝(しっぽう)、硝子(がらす)、砡(ぎょく)、硯(すずり)、截金(きりかね)、象牙(ぞうげ)、和紙(屏風(びょうぶ)/墨流し(すみながし))、木画(もくが)、等の工芸が含まれ分野によっては古墳から出土したものや、正倉院宝物として今日に伝世されるものがあり、何れも長い歴史と伝統を有します。
古来、七つの宝(金・銀・瑠璃(るり)・硨磲(しゃこ)・瑪瑙(めのう)・真珠・まいかいに例えられ、無限の色感を立体に表現できる特性を持つ。金属素地(金・銀・銅等、“胎(たい)”といわれる)にガラス質の釉薬を施し焼成。研磨して仕上げる。
釉薬は作家が調合し、独自の透明度・色感を得る事が出来る。(炊き合わせて色を作る作業は「ホーロク合わせ」と云い大変重要な手順の一つである)
有線七宝蓋物「花衣」 長谷川房代
角針七宝香炉「花陰」 梅澤美子
省胎七宝鉢「雨あがり」 高橋通子
ガラスは他の工芸分野の素材と違い、素材自体が透明であるという事がこの工芸の最大の特色です。正倉院に現存する白瑠璃瓶(はくるりへい)等の御物を始めとして、奈良時代の仏像に用いられた吹玉や、トンボ玉などガラスが古代の人々から珍重されてきたことがうかがえます。
江戸時代末から明治の初めにかけて本格的なガラス製造技術と各種の技法を学び、産業としての基盤、工芸品としての地位も近代になって確立したといえます。
ガラスは原料の硅石に石灰、ソーダ灰等の媒材を加え摂氏1000度以上の窯で熔かし、着色する場合は各種金属酸化物を添加して発色させます。
ガラスの成形は坩堝で原料を熔かし、型の中に吹き込み成形する方法と型を使わない宙吹きの方法があります。またこのような方法で成形された素材に切子、グラヴィール、サンドブラスト、腐蝕(エッチング)等加飾する技法があります。
宙吹金赤内被モール鉢 山口浩二
ガラス鉢「鏡」 白幡 明
クラヴィール鉢「群游」 松浦松夫
エナメル彩花器「芽吹きの季」 河内玲子
東洋における砡加工(貴石彫刻)の歴史は古く紀元前中国の周時代の祭器に始まり、連綿と今日に続いています。正倉院宝物には砡類が多く収められ出雲地方など瑪瑙(めのう)、水晶、碧砡(へきぎょく)等の原石を産出する地方へ砡加工の技術が伝えられましたが、鎌倉時代に到り祭りの様式も変わり又身につける物品も変わり、技術も途絶えてしまいましたが江戸末期に山梨県金峯山麓で、水晶原石が発見されたのが契機となって砡の手磨き技術が根付きました。現在の研磨法は原石を選びデザインを決め下絵を描き、研磨剤(カーボランダム)を使い下絵に従って櫛の歯型に切り込み、その部分を小槌で欠き研磨前の成形をする。回転する研磨機の先に鉄のコマを取り付け粗い研磨剤から細かい研磨剤に代えながら細密に加工していき、最後は木のコマを使い酸化クロムをつけて磨き仕上げていきます。
ファンシー瑪瑙香炉 高野 誠
硯は中国文明の伝来とともに我が国に移入されたものです、和硯の発展は中世(鎌倉、室町)以降で、近世文運の隆盛とともに硯の需要も増大し、現在各地に産出される石もほぼこの時期に開発されたものです。
硯の石は粘板岩、輝緑凝灰岩などですが加工はほとんど手作業です。まず原石を鏨(たがね)等で平らにし、電動鋸で大まかに成形し超硬タンガロイの刃のついた木の柄の鑿を肩先に当てて全身で彫削り、荒め細かめの砥石で磨き上げた後ロウあるいは漆等を塗布して極薄い被膜で仕上げられます。形は方形、円形、自然の形をそのままに生かした形、文様やデザインに工夫を凝らした物などがあります。
新風硯 雨宮彌太郎
截金は平安朝以来の長い伝統をもつ技術で、正倉院御物の「新羅琴(しらぎごと)」はこれによる装飾です、主に仏画、仏像の彩色の上に施されています、 1ミクロン(1000分の1ミリ)以下の厚みの金、銀の箔を極細の線や矩形、短冊形、円形等に切り、接着剤で貼り付けて模様を表します。息を吹きかけただけで皺がよったりちぎれてしまうほど、薄い箔を鹿皮の台の上で竹のピンセット、竹の刀を使い切断し筆を使って貼り付けていきます。少しでも呼吸が乱れれば箔は飛び散るので注意が必要です。
象牙は適度の硬さ、粘り、光沢があり古来より優れた彫刻材として多く用いられてきました。わが国では紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)等の正倉院御物、江戸期の根付、明治期の象牙彫刻等が代表的です。素材の大きさは直径15センチ程であるが中程から先の方が彫り易い。のみと舎利目と呼ばれるやすりで形を作っていく、その後表面の凸凹を小刀で滑らかに削り耐水ペーパーや磨き粉で丹念に磨いた後、鹿角の粉で艶をかけて磨きを終える。加飾は染料、漆、象嵌が主である。撥鏤は中国唐代に行われた彫刻技法の一つですが赤、緑、青等に染められた象牙に手彫りで文様を描きます。染色は象牙の内部まで滲みていないので、彫り刻んだ所だけ白く表れます。
象牙鷺香合 中村雅明
和紙の原料としては楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)が主であり漉き上がりの紙もそれぞれ特長がある。産地も違い原材料も異なり、漉き手、水の違いに依っても微妙に質の違いが現れる千有余年の歴史を持つ和紙は他の国に例を見ない強靭さ、肌合い、艶、暖かみを持ち世界に誇りうる紙です。
諸工芸部門では主に風炉先屏風が出品されてきている。風炉先は茶道において風炉の先に置いて二方を囲い点前座を仕切る役目の小屏風である。草庵や風炉先窓のある茶席では用いず広間の場合も壁際いっぱいに置く場合と点前座を壁から離して仕切る場合とに用いる。
水面に落とした墨汁、色を少量の油に反応させ流動的な模様を作り紙面に定着させる伝統技法です。
奈良時代に盛んに行われた木工品の装飾技法です。紫檀、黒壇等堅い木地に色彩の異なる木竹、牙角等嵌めこみ絵画的な図柄や幾何学的な文様を表現する技法で、正倉院には華麗にして優雅な木画の美を表現した楽器、箱等があります。