日本工芸会東日本支部

第49回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

灰釉晶文長陶筥 椎名 勇

この作品は、焼くと茶色になる鉄分を含む赤土を、厚さ一センチ程の板状にし、それを貼り合わせて形を作りました。次に、焼くと白くなる白化粧と黒くなる黒化粧を施し800℃で素焼きしました。本焼きは、焼くと淡いブルーになる灰釉とマットな白になる白釉を、赤土と白化粧にまたがるように刷毛塗りをし、1260℃で還元焼成しました。その後、金彩、白金彩を800℃で上絵付けをして完成させました。
ザラザラからツルツル、ピカピカまで、質感の違った茶・黒・白・淡青・金・銀の色面を、陶筥の形の中にどう配置・構成するかを考えるのが、一番楽しく、また、苦心するところです。今回の作品では、鉱物の結晶をヒントに、作品と向かいあう中で、構成を見つけていきました。


宮城県知事賞

白磁鉢 清水 正章

白磁の鉢はギリシャの神殿をイメージしたものです。縞の縦の線は大理石の柱で、上部と下部をはっきりさせないのは風化による時の経過を表しています。また口辺はエーゲ海の水面のイメージで薄く緊張感をつけました。全体に薄く透明釉をかけて還元焼成です。透明釉を薄くかけるのは真白く焼き上げる為で、厚くかけて青白磁になるのを避ける為です。焼成後サンドブラストを軽くかけて磨硝子状にします。これにより一段と風化した様になり、また光の乱反射により白磁の白を一層白く見せる効果があります。見方によっては木立や列車の窓や人の群れの様にみえる可能性があります。この様に数多くイメージが膨らむ作品を作りたいと思っています。


北海道知事賞

栃丸文象嵌箱 西村 治郎

木工芸には大きく分けて「指物」「刳物」「挽物」「曲物」とあります。今回の出品作は指物です。指物とは板と板とを「仕口」という工作法によって組み合わせて形を作る技法です。
通常、工芸品の箱は「印籠蓋」か「台合わせの被蓋」となっていますが、出品作はそのどちらでもなく、懸子が蓋と身をつなぐ構造となっています。使用した材は栃の板目の杢板で杢目の形に合わせて四角ではなく十二角形にしました。そして合口の見付部は、黒柿を用い銀の丸文様を象嵌し視覚上、引き締まった印象を与えると思います。仕上げに拭漆を施し軽く磨きました。


新潟県知事賞

「木守り」木芯桐塑紙貼 原山桂子

私の作品は、桐の木で柿の実の形を彫り、ヘタも別の桐で彫りました。実だけ、赤の「とのこ」で色を付けました。
子供は、桐の木を芯にして、細かい桐の粉に糊を混ぜて粘土状にした物(桐塑)で、形を整え、その上に、膠と胡粉という貝を細かく砕いた粉をよく練って下塗りします。丈夫な和紙を貼って、再び胡粉を塗り、乾かしながら何回か塗り重ねます。表面をサンドペーパーなどでなめらかにして、私の場合は、典具帖という薄い和紙を5~6枚位重ねて貼っていきます。着ている物は水衣という布で、髪は麻を染めて貼っていますが、ちょっと遊びすぎたかも知れません。
木守りはいつだったか、沢山実の付いた大きな柿の木に雪が降り積もっているのを何か切ない気持で見上げた、そんな想いが形になったかなと思います。


岩手県知事賞

鑞付有線七宝花筒 勝 文彦

七宝とは、金属にガラス釉などを焼き付けたものを言います。七つの天然の宝石に見えることから七宝と名付けられました。素地は、手絞り加工し銅帯板を一本ずつ鑞付加工をしています。細かい模様の銀線は、七宝での伝統の有線技法です。飾り玉として半円の七宝玉を加飾しました。今回は、独自の技法をいかすために全体を黒調の色合いでおさえて、線表現を銀色にしてヒスイ色の飾り玉でアクセントを出してみました。素地から仕上がりまで、約三ヶ月ほどかかります。工程が七宝に入ってからも焼成だけで六回行います。そして仕上げに宝石を研ぐように研磨をし、花筒として制作しました。七宝の魅力とは、色の装飾性と完璧な計算から制作された人工美だと思います。


朝日新聞社賞

薬研硯 雨宮 彌太郎

「薬研」とは漢方医などが生薬を粉末にするのに用いられた器具です。“薬研硯”は古来より硯箱に収められる硯に多くみられ、内隅の鋭角的な印象から“薬研”と呼ばれています。“薬研”の意匠は伝統的な形でありながら現代にも通じる要素があります。そのシャープな造形に魅かれ今まで何度か作品化して来ました。本来はきっちりとした矩形の細縁の硯ですが、この端正な印象を原形に、柔らかな大らかさを取り入れるべく意図した形が今回の作品です。縁を太めに取り、手前に広がる風字硯のようなゆったりとした形と“薬研”の鋭さを調和させるように努めました。
硯面には雨畑石特有の斑紋が広がり微細な金星のとぶ、石質にも恵まれた作品となりました。


日本工芸会賞

吉野織帯「流氷」 平山 八重子

藍染の糸と、吉野織の組織を使い、立体的で、楽しい帯を織ってみたいと思いました。様々な太さの糸を取り出し、織り進むうちに、北国のきっぱりとした冷たい空気を感じ、「流氷」という題名にしました。
深い海の色、光と影などが表現できたらと思いました。染料は藍の濃淡、渋木、阿仙などの草木染めです。絹糸の光沢と、鮮度の高い透明な草木の色に、助けられたと思っています。
染織の仕事は本当に楽しい。その思いが作品を通して、見る方に感じとっていただけたら、うれしいと思います。


山種美術館賞

色貝飾箱「彼岸花」 松﨑 森平

彼岸花は様々な異名を持ち、その中には不吉を予感させる意味も多い花です。しかし自分は彼岸花の持つ独特な形態や色彩から力強い生命力を感じ取り、そういった植物の持つ生命美をテーマに意匠化しました。
花弁の線の印象を黒い漆地で表現し、それを強調するため背景には、薄貝の裏側から銀粉や顔料で明るく着色した伏彩色技法を用い、短冊状に貼りつめることで、花がおだやかな光の中に力強く咲く情景を表現しました。
これまで貝をランダムに割り、大きく色面を構成して図案化してきましたが、今回の作品では、「線」の持つ美しさを追求して制作しました。


MOA美術館賞

彩変化花籃 藤塚 松星

竹工芸の技法には大きく分けると編み技法と組み技法の二つがありますが、この「彩変化花籃」は組み技法の作品です。
籃は二重構造になっており、内側はやや幅広の平割り材の輪を積み上げ、外側はヒゴを縦に並べた櫛目編で構成しました。
ヒゴと言えば通常、丸か四角形ですが、この作品では三角形のヒゴを使っています。そのヒゴの面を朱色と黒色に染め分け、色の境の角を正面に向けて並べています。そのために、見る角度によって色が朱から黒へ、黒から朱へと変化して見えます。さらに、胴部分に入れた曲線を境にヒゴの向きを逆にしてあるので、そこでも朱と黒が逆転して見えます。
このように、この作品では見る角度の違いによる色の変化の面白さや、やわらかいグラデーションが最大の特徴であり、見所です。
なお、作品名の「彩変化(さいへんげ)」とは、この新しい技法に私が付けた呼び名です。


三越賞

鋳朧銀花器 西 由三

この度、名誉ある賞を頂き喜びと共に自信が深まった感じがしております。私のやっている鋳金(ちゅうきん)という仕事は鋳型の中に溶かした金属を流し込み成形する仕事です。金工でありながら削ったり磨いたりという金属に直接触れる作業は最後の仕上げまで無く、それまでの原型、鋳型造りでは粘土、石膏、木材、樹脂、砂等、様々な素材との格闘となり、形体もネガとポジ(雌型と雄型)の入れ替えを何度も繰り返すことになり、時として造形や創作の主旨への認識が曖昧になりがちな難しい作業です。その中で鋳型から新たな金属造形物が現れる際の感慨は他に類を見ないと思います。完成には象嵌、研磨、着色等永い仕上げ作業を経る訳ですが、金属が素材の美しさを発揮し作意とうまく調和した時に良い作品が出来上がると思います。この作品がそれに当たるかどうかは判りませんが、鋳金による金工作品の面白さを広く多くの方に見て頂きたいと思います。


川徳賞

銀金彩花器「春風」 本橋 政子

この作品は、0.1mmの一枚の板から、金づちでたたき乍ら作った変形花器です。口は両脇が角張った、楕円です。上部に0.8mm巾の黒味銅をはぎ合せ、全体のバランスを考えて、シャープな感じにしてみました。
模様は動きと、力強さも思わせる様にと考えました。
仕上げは純金を淡くやき付け、春の暖かい風を感じさせ、上部の黒は、黒味銅を酸化させて黒色にして、ひきしめてみました。


日本工芸会東日本支部長賞

紬織絣着物「春の雨」

 大髙 美由紀

この作品は、経糸・緯糸ともに、染め分けた糸を使って織る、経緯絣(たてよこがすり)です。
華やぐ花々と静かに降りそそぐ春雨のイメージを、それぞれの絣のリズムが、縦橫に交差する構成にし、色を変えて、奥行きが出るようにしました。
春の小雨の烟るような柔らかな情景を表すために、仕立ての際に、色と柄の繋がりが、強すぎず、乱雑にならないように、横段を裁ち合わせています。