日本工芸会東日本支部

第50回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

献保梨銀線象嵌十二角小箱 桑山弥宏

この作品は献保梨という木材の薄板を「やといざね」という指物技法で組み合わせて作っています。そこに象嵌技法で銀線、黒檀、象牙材を木地に埋め込み、仕上げは拭き漆を施しました。
木工は素材そのものの美しさを引き出す工芸です。蓋の表面の杢目に合わせ十二角形とし、中心から全体に広がる様に構成していきました。そのなかで、どの様に銀線を配置していくかが苦心した部分でもあり、見て頂きたい所でもあります。
細かい象嵌は集中力のいる緊張する仕事ですが、拭き漆された献保梨の色合いと銀線の象嵌が作品に緊張感と華やかさを与えてくれたと思います。


宮城県知事賞

黒絵文様器 佐々木里知

テーマは「ノスタルジー」です。綺麗なかたちに、黒の抽象文様をいっぱい綴り描き、絵物語のような構想にしました。やきものとしての素朴な材質感と、伝統技法にある織部の鉄絵文様や、古代陶器の掻き落し技法にある土着的文様が織り成す、独特な風合いを追求した作品です。伝統を大切にしながらも、現代に生きる器を模索しています。
素材は少し鉄分のある陶土です。ろくろ挽きに少し輪積みし、さらに引き上げます。赤土、磁土を表面に薄く彩泥、引っ掻きながら形を整えます。乾燥途中に鬼板などをブレンドした鉄黒化粧で彩色絵付けをし、さらに掻き落しと線象嵌で文様を刻み込みます。風化していく傷跡のように表面のけずりを繰り返して仕上げます。豊かな表情づくりのため、素焼き後に鉄化粧などを軽く塗布し、薄い象嵌をしてから緋色がほのかに表れるよう薄く灰釉を掛け、程よく焼成しました。


北海道知事賞

花籃「春」 大木淑恵

この作品は近年挑戦している組みの技法で作りました。竹ひごを編まずに籘で固定していく技法で、ひごの曲げ具合や間隔を揃えるのに苦心しました。
春の生命の躍動感を表現したいと思い、口が広がる形に別ひごを片流れに配置する花かごを考えました。春の喜び、力強さのようなものを感じていただけたらうれしいです。


新潟県知事賞

紬織着物「萌」 西橋はる美

静かで穏やかな世界を、表現したいと思いました。
「希」を、テーマに変わり格子を、織ろうと、線を足したり、消したりする内にこのような構成にいたりました。
経糸は山桃の樹皮、緯糸は、玉ねぎの皮で、媒染によるぼかしを染料としています。
ふりそそぐ光と、伸びゆく力のようなものを感じ、題を「萌」(きざす)として出品しました。


岩手県知事賞

蒟醤存清盛器「心束」 鈴木元子

この作品のイメージは、かすみ草の花束です。兄の結婚を機に思いついたもので、幸せを願う祝福の気持ちを形にしました。
素地は石膏で型を作ったものに、麻布を張り重ねて脱乾する乾漆技法で作りました。加飾部分は漆を塗り重ねた所を刃物で彫り、色漆を埋めて研ぎだす、蒟醤技法を用いています。
蒟醤は、点や線などの彫り方や、使用する刃物によって様々な表現ができる技法です。
また、奥行きを出すため、蒟醤を施した上に筆で花を描き、際を彫る存清をしました。
これらの様な技法を使い、やわらかな華やかさを持つかすみ草を表現できるように努めました。


朝日新聞社賞

赤銅花器「波」 宮澤淑子

両面赤銅、側面銀の扁形花器です。波文打出し部分には金銷を、その他銀線象嵌、金銷打込み象嵌を施しました。内側は金銷、銀箔、側面は銀箔を用いています。
扁形の大きなボディにしましたので、この形に負けない様に力強く、勢いのある波文を打出し、線象嵌、打込み象嵌の技法で仕上げました。全体のバランス、力強さ、勢いを感じて頂ければ幸いです。


日本工芸会賞

銀彩八角皿 小山耕一

ロクロを使って、丸く成形した皿の縁辺を切り落として、八角形にしました。
文様を線彫りして、ところどころ釉薬の濃さを変えながら、吹き掛けし、1240度の高温で焼き上げました。この時点では、まだ色が付いていません。文様に合わせて、絵具を塗り、740度で焼きつけ、完成です。
私の作品の特徴は、陶器の上に、金属的な光沢を表しているところです。今回の作品には、チタンなどの、陶芸ではこれまであまり一般的ではなかった素材を試みています。
見る角度によって、光の当たりかたが変わり、反射して、私が一番見てほしい、キラリと輝く瞬間があるはずです。どうぞお見逃しなく。


山種美術館賞

流流文鉢 土橋一博

この作品はグラールという技法を使って製作しています。外被せのガラスを加飾後、その上に新たな透明ガラスを巻きつけて成形していく技法で、今回の作品は青、緑、黄色の3本のシリンダーを製作後、リング状に切断し、その切断面を研磨加工し、各リングを電気炉にて重ね合わせて熔着後、吹き棹にて取り出し器に成型しました。
青と緑のリングの加飾は水辺の雰囲気を漂わせる様に製作し、特に緑のリングには流れる泡を配しています。青と緑の厚いリングの間に薄い黄色のリングを挿し込む事で色のコントラスのおもしろさを表現しています。
吹き棹にて熱いグラスに向き合う時間よりも、常温状態にして、加飾、切断、研磨の作業時間が長いガラス製作です。


MOA美術館賞

乾漆切絵筥「春芙蓉」 根本曠子

かたちと文様が一体となるように心掛けました(内側にも文様を散らしました)。筥本体は乾漆で石膏型に麻布(薄手・厚手5枚)を糊漆で貼り合わせ下地と塗りを施します。加飾の切絵は、極薄の和紙(典具帖)に糊漆を引き型紙をつくり文様を切り透かします。金平目・貝を施してから文様をはり、和紙の繊維に漆を摺込みながら顔料や金粉を絡ませます(20回前後)。
薄紫や緑などの彩色は、その都度マスキングをして繰り返しますが、素材の特色生かすため、顔料のブレンドや艶なども考慮に入れて仕上げました。


三越賞

木彫木目込「冬のおくりもの」 齊藤芳江

冬の情景の中でかもしだされる心温まる母子の情愛を表現しました。母のマントの中から子供が手をのばして空から降ってくる何かを受け止めようとしています。雪の形はどこにもありませんが、色と模様でそれを感じていただければ幸いです。
作品の手法は桐の木を彫り、地塗胡粉を施し、頭(かしら)はさらに上塗り胡粉で仕上げ、服は帯地と自染め布を木目込みました。そして布の他に銀箔、皮革、和紙も使用しました。
子供を母の衣服の中に入れ、同じ方向を見ることで、母子像の一体感を出したつもりです。


川徳賞

紬織着尺「霜の声」 川端小麦

紬糸にびんろうじ(ヤシ科の樹の種子)を鉄媒染で染め、地色としました。
紫を含んだような鼠色に白の絣を合わせた時、湿った土の下に見え隠れする霜柱が思い出され、そのイメージで織っていましたらだんだんと霜柱が皆で歌っているように感じましたので、この題名をつけました。
藍の経絣とその脇の色糸は、それぞれの色がなるべく映えるように機の上でいろいろ置き換えてみましたが、配置の仕方で全体の雰囲気が随分変わるものだと実感いたしました。


 

日本工芸会東日本支部長賞

蒔絵短冊箱「春野」 佐藤達夫

自然の中に小さな魅力的な個性的な草花がひっそりとさいています。題材のカラスノエンドウを図案の手前から先に群生した様子を少しずつ奥行きが出る様に配しました。葉やつるは多方向へ伸ばして行く事で動きを出しています。
花は、夜光貝の薄貝に図案を写しカッターで切り取る。花の色合いに近くなる様に色漆で裏彩色を筆や針で施します。後に、文様に合わせ貝に切目を浅く入れて箱の表面に付き安くなる様にし、呂瀬漆で付けしっかりと押さえます。
葉やつるの部分は、砂糖炭と青金で薪きぼかす。重なり合う所はやわらかく強弱を考えながら丁寧に行います。その後、全体に丸粉十号、八号を薪きつめ固めました。研出しは、一度に行わず何度も摺り漆をしながら朴炭の針炭で全体の調子や具合を見ながら研出して行きます。研過ぎの無い様に慎重に作業を進めました。


第50回展記念賞

白磁「はこ」 和田 的

白磁「はこ」で使われている粘土は、熊本県 の天草で取れる天草陶石を主原料としてできています。
轆轤で形を作ります。その際、彫りをする分、厚く作っておきます。彫りを施すのは、完全に粘土が乾燥してからです。乾燥には1~2ヶ月くらい掛けます。そうしないと素地が厚く成形されているため、割れてしまう原因となってしまいます。彫りは彫刻刀で行います。
900度で素焼きをした後に釉薬を掛け、1300度でもう一度焼きます。
 この作品では、彫ることによってエネルギー のようなものを感じていただければいいなと 思い制作しました。またシャープなエッジや滑らかな曲線の対比なども楽しんでいただければ嬉しく思います。 


第50回展記念賞

組紐帯締「貝紫夢幻 花に風」 伊藤裕子

絹糸の光沢に魅了され組紐を始めました。長く人生を送って居りますと、度々、すばらしい出会いがございます。
こどもの頃、母が日本刺繍を楽しんで居りました。その刺繍糸の上品な美しい光沢が、心に刻まれたのが始まりです。
組紐に係わって四十年余り、十年前には、貝紫染の糸で、帯締を組むように依頼され、ここから試行錯誤、初めは科学染、次に植物染、そして貝紫染と進み、夫々の特色を面白く経験いたして居ります。貝紫は、少し違和感のある彩りです。そこに魅力を感じ、帝王色とも言われているこの紫を、私なりに品格ある美しい姿に表現したいと心がけています。この紫は、光を受けると、生きているように生々しく、蔭では、不安な黒のイメージに変化する気がします。「用の美」を意識する時、ここを何とかしたいと常に考えています。
この度の作品は、花びらが、軽やかに風を舞う様を、細やかな金をそえて、表現していたしました。
50回展記念賞が私の下に舞って参り、ここまでお導き下いました方々に、心から感謝いたします。ありがとうございました。


第50回展記念賞

乾漆盛器「seed」 奥井美奈

この作品は「seed」という作品名の通り、「種」をイメージしてつくりました。
外側は固い殻を模した変わり塗、上面は内側に満ちる生命を朱色で表しています。
種を半分に割ったような器形は、「乾漆」という古くは仏像に使われた技法でできています。麻布や和紙を漆で貼り重ねているのですが、軽くて自由な形ができます。
外側の四分一塗という炭粉と錫粉を使った変わり塗を施し、僅かにざらりとしています。上面は朱色を「呂色」という滑らかな艶のある仕上げをしています。
異なる色と質感で「種」の内と外を表し、小さいながらも力強い、希望や豊かさの象徴である「種」を感じて頂ければ嬉しいです。


第50回展記念賞

雀打ち出し匣「残雪」 押山元子

春を待つ心躍る気持ちを雀に、冬の終焉や離別を惜しむ思いを残雪の景色に見立て、一空間を表現しました。雀は、銀の板を打ち出して形を作り、その上に銅や赤銅を象嵌し、残雪のイメージは、銀板と銅板をアルゴン溶接で撹拌するように混ぜ合わせて溶かし込み、土の部分が少し見え隠れするような雰囲気に作り出して表現しました。全体的には、広がりを感じさせる形に、銀と銅で表現した雀と同じ素材を景色の部分に使用することで色彩的に統一感をもたせ、空気の流れをたがねで表し、煮色着色後、薄くいぶして落ち着いた感じにまとめました。箱の内側には、茶色系の花模様柄の印傳を貼って表面の色合いと合わせてあり、箱を開ける楽しみも加えてみました。


第50回展記念賞

花籃「木陰」 永田勝実

この花籃「木陰」は、竹工芸の技法の一つである組み技法を使った作品です。籃は二重構造で、内側は透かし網代、外側は櫛目編み、底は縦横のヒゴで四つ目を組んでいます。
作品制作に際して、次の3点に留意しました。

木陰から洩れる日の光を感じてもらえれば幸いです。


第50回展記念賞

木芯桐塑木目込「悠揚」 野上俊治

体は木を削った芯に桐塑で肉付けし、形を整えた後 時代裂を木目込み、顔・手・足は胡粉で仕上げる 「木芯桐塑木目込み胡粉仕上げ」 と言う技法で制作しました。
悠然と落ち着いて寛ぐ姿を表現し「悠揚」と題しました。 ゆったりとした雰囲気を感じていただければ幸いです。


第50回展記念賞

七宝飾壺「街」 伊藤明子

この作品は街を俯瞰(ふかん)したら…、と発想し、街並みをデザイン化してみました。昼下がりの夕焼け色に染まろうとする時の街を思い浮かべ色を考えました。
技法は七宝です。硅石に酸化鉛等を混ぜた物に顔料を加え釉薬を作ります。顔料は、熱に耐えられるものでないとなりませんが、なかなか安定したものがみつかりません。いい色も試し焼きをしてみると、全く違う色になったり、ピンホールが予想外のものだったり、よく溶けなかったりします。ピンホールをコントロールできれば、また楽しい作品になることと思います。
この技法の特徴としては、研ぎにより独特の肌合いとなります。肌合いの暖かさは格別で真鍮線ともマッチすると思います。真鍮線は硬く細かな繊細な表現には向きませんが、その素朴さ故に味わい深いと思います。
まだまだ、研究しなければ分からないことがいっぱいですが、それだけに奥深く、楽しい技法と思っています。