日本工芸会東日本支部

第51回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

紬織着物「かなたへ」 平山八重子

 この度は、思いもかけず、素晴らしい賞をいただき、ありがとうございました。紬はいぶし銀の様な光沢と素朴な風合いが特徴で、丈夫で着易い絹織物です。
 紬糸は農家の女性が出荷できない不できの繭から糸を作り、家族の為に織ったのが始まりです。それぞれの家に小さな端切れ(布)を貼った縞帳があり、見せ合って楽しんだそうです。
 今回の作品は、藍(あい)、紅(こう)、露(ろ)、阿仙(あせん)、渋木(しぶき)などの草木で染めました。柄はよこ糸の絣だけで織り出しています。糸も染料もすべて自然からのもので、その時の天候などにも左右されます。織も湿気、糸の状態などで、中々思う通りにはなりません。それがおもしろくもあり、大変なところです。
 日本の女性が残してくれた絣の美しさを自分なりに消化して、強くてやさしい絣の世界を創ってみたいと思っています。
 ご指導の程、よろしくお願い致します。


宮城県知事賞

木芯桐塑紙貼「モメント」 杉浦美智子

 技法は「木芯桐塑和紙貼」です。
 木を荒彫りにしたものに、桐塑(桐の粉にのりを加え粘土状にしたもの)で肉付けし和紙を貼って彩色します。
 肌には典具帖というごく薄い和紙を肌の色に染め、何回も貼り重ねます。繭につつまれたような暖かみのある肌を作るのが理想です。
 肉付けに使う桐塑には、素材としての主張がないので、文字どおり「人形」ヒトの形そのものが素材と言えるかもしれません。これを使いこなすのは、とても難しくて、まだまだ、遠い遠い道のりです。


新潟県知事賞

佐賀錦 袋「雪解け」 小形由美子

 佐賀錦は、縦には糸でなく裁断した和紙(経紙)を用います。緯糸には絹糸や金糸で織り込みます。
 今回の作品は、水色、白色の経紙、本金箔を施した経紙を貼り分けて制作しました。それによって自然に光と影の部分ができるように工夫しました。また、一つ一つのモチーフが同じ大きさになるように細心の注意をして仕上げました。
 春を待つまだ冷たい空気を、色で重ねて表現しました。


岩手県知事賞

斜線文提盤 田中旭祥

 竹の工芸においては大別して編み技法と組み合わせ技法がありますが、本作品は編・組の両技法を用いています。編み技法の部分は巾1.3ミリのヒゴを蘇芳を煮出した染液で浅染めして黄褐色にしたヒゴと塩基性の染料で黒染めしたヒゴで透かし網代でバイアス方向に編んでいます。組み部分は幅広の2種の竹を同じく黒染めしたものを4本横方向に配して力強さを表現しました。
 横長のシンプルなデザインにして蝶結びを中心とした低めの提げ手を取り付けることで空間を取り込み作品全体が広がって見えるようにしました。
 高台は高めにして器物が浮いているように見えればと思い制作いたしました。
 一度構築したデザインからどれだけ削ぎ落せるか迷うところです。

 


朝日新聞社賞

彩切貝野の花文短冊箱 三好かがり

 野の花が可憐に咲く姿は、なにかその美しさのなかにもしなやかな強さがあり、いつも私に優しい気持ちと勇気を与えてくれます。
 銀箔を貼った白蝶貝を丸い鏨(たがね)で打ち抜き、そのシンプルな丸い形だけでこぼれんばかりに咲ききそう野の花を織の文様のように表現しました。側面は純金の平目粉(ひらめふん)の蒔絵です。蓋を取ると上段には硯と水滴、下段には短冊が納められるようになっています。
 彩切貝(いろきりがい)とは、金銀箔や色箔などを漆で貼った薄い貝を細片にして用いる技法です。螺鈿(らでん)では夜光貝、白蝶貝、鮑貝などの貝を使います。青や赤など、貝そのもの色に様々な箔のバリエーションが加わり、多彩でシャープな表現をすることができます。
 日本産の漆はすぐれた接着性を持っていますので箔を貼るのも、漆の面に貼るのも日本産の漆のみを使います。


日本工芸会賞

硝子鉢 山田輝雄

 発想の原点は布を絞って染める鹿の子絞りの文様です。
 金赤外きせガラスの表面を、リング状に削る事で出来るパターンでそんなイメージだった事を憶えています。
 一般的に、切子は二次元の構成でデザインされていますが、三次元的奥行きの有る切子と、独自性のあるスタイルを確立する為に、大小のリングの重なりで立体構成を試みました。
 同じ条件のせめぎ合いの中で、蜂の巣や泡の重なり合いなどがそうであるように、自然の摂理として隣り合う円、或いは球面は影響し合い多角形状に変化します。
 その条件を変えて削る事で、円、或いは球面は立体感を持ち、奥行きを感じさせる文様に変化します。
 その条件を変えて削る事、とは?ダイヤホイルの径を変えて削る事です、大小の径状差が立体感を創り出します。

 


山種美術館賞

泥七宝香炉「遥」 平野滋子

 「これも七宝焼?」初めてご覧になった人から、こんな声が寄せられることもある泥七宝。この作品は、その技法を用いて制作いたしました。
 まず、真鍮線を図案に合わせて付けていきます。その後、唐土・白玉・硅石に各地の土などを顔料として混ぜてよくすり合わせ、施釉・焼成を十数回くり返します。最後に、研いで仕上げます。
 泥七宝の特質であるピンホールの肌合いを生かしたおもしろみのある作品を追い続けています。色の重なりによって、研ぎ出した時に出てくる微妙な表現は何ともいえません。
 つまみは、全体のバランスを考慮して、形を工夫してみました。
 泥七宝のもつ温もりや肌合いを感じていただければ、うれしく思います。


MOA美術館賞

青白磁抜絵草文鉢 栗原 慶

 
 ろくろによる成形です。できるだけ薄く削った後、草文をロウで描き、泥状にした磁土を全体に塗り重ねます。ロウが水分をはじく性質を利用して独特な表情を作りました。
 その後930℃で素焼きし、鉄分を僅かに含んだ薄青色の釉薬を施します。釉薬が乾いたら、ヘラで削り落とします。
この時、ロウで描いていた草文様のへこんだ部分には釉薬が残り、1250℃で還元焼成すると水色の発色になります。
 水・空・風といった森羅万象をイメージしています。
 作品の内側中央には、水たまりに見立てた青白磁釉の溜まりがあります。


三越賞

乾漆梅花盛器 築地久弥

 乾漆といって最近有名になった興福寺の阿修羅像と同じ技法で、麻布を漆で型に貼りあわせて器物を作る作品です。梅形に作って石膏型に麻布を貼り、程よい厚みになったところで型から外し器が出来ます。それに朱の漆を塗った上に透明の漆(すき漆)を塗ることが朱溜め塗りといいます。縁は鎌倉彫りに使われる朱蒔きという技法を自分なりに工夫して施しました。尾形光琳の梅のデザインをヒントに、心待ちにした春の息吹を明るく表現しようと、朱蒔きの彩りを強調するため器物は簡素化しました。
 


川徳賞

線花器 萩野紀子

 線をテーマに接合せ技法で長年作品を作って来ました。接合せは、違う金属の合わせ目に銀と真鍮の合金(銀蝋)を720度位の熱で溶接する技法です。金属は酸化するとそれぞれの色に変化します。その色の組み合わせでリズムを、線の幅を変え、上下の形をずらすことで動きを出しました。形にあった文様、文様にあった形を意識し制作をしています。接合せ部分だけでなく、黒の部分の線も工夫しました。硬質の金属ですが、金づちで鎚目を付けることで、優しく、柔らかな雰囲気を感じていただける作品になっているのではないかと思います。
 金属はそれぞれ硬さや収縮率が違い、熱や力を加えると接合部がはずれたりと大変な仕事です。しかし、その大変さが長年制作を続けてこられた原動力になっていると思います。
 


日本工芸会東日本支部長賞

楓寄木造象嵌小箱 渡辺晃男

 今回素材とした楓は,縮杢と玉杢が一体となっている部分で、それだけでとても美しい良材でしたので天板と側板の境には界線を入れることなく一つの塊りとして捉えられる様に考えました。また近年試みている、寄木象嵌を側板の裾にだけ入れて小振りの箱として作品にしました。箱の内側は、金砂子を施した桐箱を落とし込んであります。


日本工芸会東日本支部長賞

面取釜「陰陽」 長野 新

 この作品は、一般的に知られている釜の形を一切気にしないで作りました。
 素材は、日本古来の鉄である和銑(わずく)を使い、制作技法は惣型鋳造です。
 作品の見どころは、正面に施した逆三角形の面と、反対側にある簡素な面との関係です。今回は「月」をイメージして制作しており、「見える部分」と「見えない部分」を立体的に表現することに取り組み、月から受けた光や、月の表面の質感なども表しています。
 今後も、自分なりの表現力を生かした作品制作を心掛けて参りますので、宜しくお願い致します。