日本工芸会東日本支部

第52回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

鉄地象嵌小匣「離れ」 奥村公規

この作品は ボディーを鉄で制作し、機が満ちてまさに咲かんとする椿を、布目象嵌技法で表現しました。
鉄の錆色に椿が映えるよう 器体の周囲を金の布目象嵌で引き締め 花はそれぞれの面に小振りに配しました。
匣の内張りは革を使用しました。


岩手県知事賞

輪文黒器 浜岡満明

この作品は、皆既日食や、「光輪」と呼ばれる太陽の発光現象から着想を得て制作しました。
素地をそぎ落として、器の側面から口作りにかけて連続性を持って巻き込むような段差を施しています。
内側に緋襷釉を薄く掛けて素焼きした後、放射状の線と輪を重ね合わせたマスキングをし、黒く発色する泥漿(泥状の粘土)を吹き掛けて本焼きします。
それにより器の中に淡い緋色の輪が広がりを持ちながら浮かび上がるよう意図しました。
また泥漿を吹き掛けすることで、表面に微細な凹凸を生じさせ、きらきらと輝くような黒を得られるよう狙っています。
作品を構成するいくつかの要素が全体として調和を保ち存在する。当たり前のことかもしれませんが、そんな作品が作れればと考えています。


朝日新聞社賞

紬織着物「五月」 村上葉子

いちばん好きな季節、初夏への思いを今でも幾度か模様に表現してきましたが、今回はずらしの大きな矢絣と緯段で構成してみました。ただ今回は初めて図案を描かず、織り出してから矢絣の大きさや緯段の間隔をその時の自分の思いにまかせて決めて行きました。緑の色も矢絣の部分だけを槐(エンジュ)に藍を掛けて染めましたが、緯縞に使った緑は手持ちの糸を取り交ぜて使いました。そのため矢絣の緑色とは違ったものになりましたが、できあがってみたら却って色が単調にならずに織り上がったように思います。
経糸は生成色と臭木(クサギ)の蕚(ガク)で染めた銀鼠色の等分の細い縞に更に濃藍の細い縞を等間隔に配し、小鮒草の黄色で一筋の光を表現してみました。


日本工芸会賞

翔稜硯 雨宮彌太郎

この度の「翔稜硯」は近年取り組んでいる薄型の硯造形の一展開です。硯材となる粘板岩はひじょうに粘りのある素材で極薄に加工しても強度を失わない特性があります。
この特性を生かして、実際の原石の厚さ、量感以上の空間を作品に取り込むことを追及した作品です。硯は墨を磨るという用途から造形にも安定感が求められ、原石そのものを愛でる伝統から、量感豊かな形態が一般的だと言えます。「翔稜硯」はそのどちらにもあてはまらず、形態と空間の響きあう造形が重視されています。それは、硯は墨を磨るという用途のみならず、硯に向かうなかで、心を鎮め、自分の内面に耳をすませるための時間をつくりだすためのオブジェであると私が考えているためです。そこに私は硯の現代の造形としての大きな可能性を感じているのです。伝統を踏まえながら硯の新しいイメージを作り出していく。それが私の仕事と思い定めて今後とも精進を重ねていきたいと思います。


MOA美術館賞

乾漆盛器「蓮の心」 野口洋子

ゆったりと風に揺らぐ大賀蓮の大きな葉に、花びらが数枚散っている情景を、器に写し取りました。花びらを軽やかに配置することで、目には見えない風や咲き誇っていた大輪の花も表現できればと思いました。
蓮の葉の形をした器は、乾漆という技法で作ります。乾漆とは、漆の接着力を利用して、型に和紙や麻布などを貼り重ねて望みの厚さにし、十分乾固させた後に、型から外し、さらにその上に漆を塗り重ねて象る技法です。今回は、和紙十二枚、麻布七枚を貼り重ねました。葉の表面の細かな葉脈などは、和紙の風合いを生かし、太い様脈は、上塗前に線描で表します。
花びらは、薄い下地で少々厚みを持たせ、葉の表面との区別をつけてから、器全体に漆を施します。上塗の後に、花びらの細い線を描き、その上を覆う様にプラチナ箔の砂子を蒔きます。次に桃色の色漆でぼかしを入れ、再び砂子を被せます。最後にアクセントとなる桃色が、白い花びらを透かして浮かび上がる様に、拭き上げます。


三越賞

黒柿拭漆飾箱 吉田宏信

黒柿材の指物による箱です。蓋は「台合せ」で、内箱は二段重ねになっています。
かぶせ蓋の全面に、連続した丸溝を刻んであります。丸刀で一本ずつ刻み付け、その後溝を一本ずつ研ぎ上げ、拭漆を施しています。
美しい木目のすぐ下には、また別の木目があります。平滑に磨き上げた木肌の下、作品になってしまえば二度と見られぬ木目というものがあります。
平らな板に丸溝を削ってみると、その溝に、表面から連なる「木目の内部構造」が現れます。
木目というのは三次元的な模様なのだと気づく瞬間です。
箱という静的な作品に、動的な変化や美しさが内包されているかもしれない、と思い、作り上げた飾箱です。


川徳賞

紗地塗箱「波音」 松山継道

木地はひば材で指物の箱に本堅地をほどこして中塗を数回重ね、中塗の研ぎをしてからしぼ漆にて文様を付け、乾ききる前に金、銀粉を蒔き、乾いたのち螺鈿を貼り付けます。それから黒漆にて紗(もみずみ)を蒔き、乾かし、文様を研ぎ出し、最後に艶上げをします。
 


日本工芸会東日本支部長賞

蒔絵螺鈿箱「小花」 中條伊穂理

私は、厚貝螺鈿にも毛彫りを施す技法を中心に制作しています。モチーフは、生活の中でいつも見ていて、おもしろいなあと観察している生き物たちの行動や生活を作品にしています。今回は、いつもより物語性は薄いのですが、春に咲く小さな花のイメージと、その中で、スズメが賑やかに飛び回っている様子を厚貝の夜光貝、白蝶貝、黒蝶貝と銀の線、金の葉で表し、貝の毛彫りと葉への引っ掻きで線をいれる事で、甲面と側面を同じ世界に、また、玳瑁の様に見えると皆さんがおっしゃって下さる地紋は、実は、玳瑁を意識したものでなく、鳥の気配や羽ばたきの音を無意識にでも感じてもらいたくて、鳥の羽を使って転写し溜塗りしたものです。余談ですが、この地紋を転写した時の作品は、朱漆色の羽紋が、血で染まった羽が散乱している様で、とても恐ろしい景色になります。


奨励賞

白磁鉢 及川美智子

磁土を使用しました。轆轤で鉢を作り、三つに割り出して縁辺と胴部分を削り出しました。850度で素焼きをし、白マット釉をかけ1250度まで酸化焼成しました。
形の仕事に興味を持っています。轆轤の回転でできるふくよかな張り、すっきりとしたラインやフォルムでみせている形の存在感、師匠のもと毎日の仕事で教えて頂いている形を作る楽しさ、ものの形を捉える楽しさの延長で制作しました。
ふくよかさと静けさをイメージし、削り出した面や線、陰影で形の存在感を印象づけようと心掛けました。
ものの形を捉えようと集中した学生時代の石こうデッサンの時間。同じように形に視線を持っていってもらえるよう、釉薬はその時の石こう像の控えめな質感をイメージしてマット釉を掛けました。
形からふくよかさと静けさの中にある強さや空気感を感じていただければ嬉しいです。


奨励賞

紬織帯「梅圃」 川端小麦

まだ寒気の残る頃、通りを歩きながら不意に漂ってきた梅の香りにうっとりして、この香りや雰囲気を作品にしたいと思いました。地色のグレーは茶の葉、絣の黄色は玉ねぎの皮で染めています。やわらかい感じにしたかったので、経縞の白から灰色への変わり目はぼかしました。
日々の感動を大切に、これからも織って行きたいと思います。


奨励賞

乾漆盤「緑錀」 奥井美奈

この作品は器胎を乾漆という麻布を漆で貼り重ねる技法で作りました。
漆器は通常、丸い形のものはお椀のように木をろくろで挽いたり、薄い木の板を曲げたりして作りますが、この作品は乾漆という変化しにくくて薄く作れる技法なので、実際に持ってみると大きさの割に軽くて驚かれると思います。
全体は潤み漆(朱漆と黒漆を混ぜた茶色の漆)を塗って、「呂色上げ」という艶のある仕上げをしてあります。縁の緑色は七本の線を一本ずつ細く丸く盛り上げ、緑色から白色のグラデーションで色漆を塗りました。
土から萌える緑色の「春」をイメージして制作しましたが、その雰囲気が伝われば嬉しいです。


奨励賞

鋳青銅器 西 由三

この作品は金属工芸の中でも鋳金(ちゅうきん)と呼ばれる技法で造った物です。鋳金とは熔かして液状になった金属を雌型の中に流し込んで固める技法です。型から取り出した後、削ったり磨いたりする金属加工の技術が必要ですが、作業の多くは金属を流し込む為の型、これを鋳型(いがた)と言いますが、これの制作に費やす事になります。鋳型や、それを造る為の原型は粘土や砂、石膏、蠟やシリコンなどの樹脂等、様々な種類の材料を用います。ですから金工と言っても金属を含めて色々な素材を使いこなす事が必要になって来ます。その作業の結果が金属になって現れるのが鋳金と言う技法だと思ってください。
この作品は青銅と言って銅に錫や亜鉛や鉛などの金属を混ぜている物です。作家はそれぞれ配合の割合を変えたり、他の金属を添加したりして独自の合金にして使います。そこが鋳金ならではの処です。
色は金属の酸化(錆びた)した色で、金属その物が発色している物で薬品によってコントロールしています。


奨励賞

花籃「卯波」 佐川素峯

この度は奨励賞を頂き誠に有り難うございました。
竹と言う素材と向き合って感ずる事は、竹の特性と言われるしなやかさ、強靭さを作品制作のうえにどの様に取り入れたら自分の心象を表現できるかと悩みました。
今回の制作にあたり、一本の柾割材を二色に染め分け濃淡を付けて、その素材を用いて、結束と分散で編み分けてみました。結束された部分で波を表現し、長閑でゆったりした感じが出せたらと思いました。


奨励賞

木彫木目込「群羊」 荒井慶子

遊牧民の羊の番をしている少女を表現してみました。
遊牧民は、中国、中央アジア、東ヨーロッパにかけて、一時代を駆けた戦闘集団であったという歴史がありますが、近年世界の移り変わりと共に、定住して農耕に従事する人が多くなりました。
しかし中央アジア周辺の高地では山羊や羊を連れて移動してゆく営みが残っています。
スピードをますます加速していく現代の私達には、想像もつかない生活ですが、人口増、家畜増にともない加速しがちな砂漠化に歯止めをかけた生活でもあります。
桐の木から頭、手、足などを別々に彫り、胡粉をかけ、衣装の布を貼ったあと、頭、手足を組み立てています。
広々とした草原、広大な空、少女の周囲で静かに草を食む羊達を感じて頂けたらと思います。


奨励賞

有線七宝合子「綴」 河田貴保子

一枚の織布を合子に掛ける景色をイメージしています。
真鍮リボン線の表面を削って荒らし、紡いだ糸のように太細など強弱をつけます。二本三本と合わせたり、直線曲線と組み合わせて三種類の模様を織り込みました。削った時にできた真鍮粉を焼きつけたのは、ラメ糸の雰囲気でしょうか。
色は硅石などを混合した泥の素に顔料として自然の土、陶器の上絵具を3%程度混ぜました。色の混ぜ具合と、色を重ねて十四回焼成最後に研ぐことによる上下の色の出方で、色の深み、しっとりした風合い、質感を出しました。