日本工芸会東日本支部

第53回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

江戸小紋着尺扱き縞ぼかし「破れ菱格子に花」 菊池宏美(染織)

江戸小紋は単色の美であります。そして、それを追い求める物でありますが、江戸小紋の技法を生かしつつ、そこからの脱皮を考えておりました。
江戸小紋の色の付け方は“扱き(シゴキ)”と言い、糊の中に染料を入れ生地の上において行きます。糊は色が混ざる事無く染め分ける事が出来ますので、その特性を利用して色の濃淡を染める事が出来ます。
今回使用致しました型紙は縦に大きな流れがあります、その流れを生かせるよう、染め分ける場所と色の数を決めました。奥行きと透明感を感じて頂けたらと思います。 
型と色との出会いは無限の物ではありますが、今を表現できる色を追い求めたいと思っております。


岩手県知事賞

青被硝子切子鉢 大本研一郎(諸工芸)

私は、竹工作品の繊細な竹の編まれた部分からいつも多くの感銘を受けています。
細かく整然と編まれた細い竹が生み出す、自然な曲線から構成される立体的な模様、表情。
今回は、それを切子硝子で表現出来ないか?ということで、硝子の表裏を削る、また彫る線の深さを変える、といった技法を用いて制作しました。
勿論「透明」という硝子独特の素材感や、「切子」という技法の特徴を引き出す為には、どうすればいいのか?という事も考えながら、デザインし硝子を削りました。


朝日新聞社賞

彩陶象嵌鉢 保立 剛(陶芸)

焼成後に黒く発色する金属を含んだ陶土で、ロクロを用いて形を作ります。削って形を整えた上に別の黒い化粧土をスポンジで乗せ、線刻(幅1mm程 度)をし、その溝に白い粘土を埋め込みます。そしてはみ出した粘土を削り、白い化粧土を吹き掛けします。
部分的に透明釉を掛け1240℃で本焼をしますが、その後に白い低火度釉を吹き掛け、もう一度焼成をして完成です。
黒い素地に黒化粧、白化粧土と白い釉薬、などいった 同じ系統の色でもニュアンスの違った2色を組み合わせるよって色に深みを出しています。また作品の表面もそれぞれ質感に差がある、スポンジを使った部分、 焼き締めた部分、釉薬を薄く掛けた部分、の3つで構成してあります。
色は、2つ曲線を用いて成形された器の形が強調できるとように、白と黒のモノトーンの配色にしました。
表面の質感差や白と黒の色のコントラスト、2種類の曲線を使った形、といった構成要素の対比によって、「 明けゆく空のイメージ」を表現してみました。


日本工芸会賞

鋳紫銅花器「包」 佐藤光男(金工)

造形としては、植物の種子をモチーフにしています。包むかたち、包まれるかたち、それを守り育むかたちを作品のテーマとして取り組んでいます。この作品は、土の中で春を待つ生命の息吹を思いながら、原型づくりを始めました。雪国長岡のわが工房も丁度、雪に埋もれている時でしたので、気持ちが重なったようです。
作品の色は紫銅(銅の酸化被膜)を出しています。これは鋳金の伝統的色合いの一つです。赤味のある部分が紫銅で、紫銅でない部分も微妙に色が変化をしています。これは作品を強く焼き上げることと、材料の配合に依るものです。この重厚な色合いが私は好きです。これからもこの色合いを取り入れた作品を作っていきたいと思います。


根津美術館館長賞

紬織絣着物「春のしらべ」 大髙美由紀(染織)

上溝桜(うわみずざくら)で染めてみたら、あたたかな穏やかな色に染まりましたので、この色を使って春らしい着物を織りたいと思いました。
寒暖を繰り返しながら次第に春めいていく様、麗らかな日と春一番の荒れた日。春のいろいろな表情を思い描きながら織り進めました。仕立ての際には、左右の絣柄が少しずつずれてやわらかい印象になるように裁ち合わせています。絣糸は、手で括って防染して、色を染め分けています。これを経糸緯糸ともに用いています。


MOA美術館賞

楓象嵌小箱 渡辺晃男(木竹工)

鳥目杢の楓で中に掛子を付けた印籠蓋造りの小箱です。
天板中央には夜光貝、その周りには、五種類の木材をグラデーションを付けて配置し錫と交互に寄木をして象嵌をしました。箱の裾模様に、夜光貝、緑青で染めた鹿の角を円形に加工し錫を巻いて象嵌してあります。細かい縮と、鳥目杢の有る美しい素材でしたので、天板の象嵌のデザインに苦慮しました。


三越伊勢丹賞

練継鉢 星野友幸(陶芸)

素材は磁土の中でもあえて鉄分の多い土を使用しています。
自分で作った造語で「練継(ねりつぎ)」と呼んでいるのですが、共に伝統的な技法である練りこみと胴継ぎの技法を組み合わせてモダンで新しい意匠を目指しました。
まずピンクに着色した粘土を練りこんだ土で下半身をロクロ成形、その上部に一本紐を積み、ピンクのドベを利用してなじませた後、別途成形しておいた上半身を接続(胴継ぎ)、その後接続部をなじませつつ仕上げの成形をします。
乾燥後に下半身の稜線と口縁のエッジを削り出し、900℃で素焼き後にマット釉を施釉、最後に酸化焼成します。
足元の練り込み模様から稜線に沿って口縁へ、そして見込みのマーブル模様へと、見て下さる方の目線の動きも意識して制作しました。


川徳賞

花籃「春の風」 大木淑恵(木竹工)

春は生命の息吹を感じる、一番好きな季節です。春に吹く強い風を、大地が動き出すイメージと重ねて、今回の作品を考えました。
この作品は竹ヒゴを編まずに、十角形に曲げて輪にしたものを重ねて組むという技法で作っています。
ヒゴを曲げる時、通常はヒゴに対して垂直に曲げるのですが、今回は斜めに曲げました。それをずらしながら重ねることで稜線のように見せること が出来ればと挑戦しました。
春の息吹の力強さ、竹の生命力を感じていただけたらうれしいです。
 


日本工芸会東日本支部長賞

曲輪造朱溜塗金彩蓋物 髙橋玲子(漆芸)

技法 曲輪造 塗り立
素材 木曽檜の柾目板使用

蓋と身の底板には直径十三センチ、厚さ一センチの柾目板を使用しその廻りに、設計図に基づき1本ずつ丸く曲げ乾燥させた厚さ二ミリの柾目板を七〇本組み重ね、型を作りカンナで仕上げました。
今回の作品は、固い花の蕾がほころびはじめるその少しふっくらとした形が表現出来たらとの思いで取り掛かりました。
曲輪造の特徴を生かした木の重なりの段と、四本の輪には金を施し、全体を朱溜塗りのぼかしにしました。
また、蓋には、花芯が開きはじめる感じを平目粉の蒔きぼかしで表現しました。


奨励賞

鉢「カイ」 東香織(陶芸)

モチーフは作品名のとおり貝です。
自然の産物でありながら作られたような形・模様の美しさを表現したいと思い、まず貝そのものを作り、試行錯誤した後、今のデザインが出来上がりました。
ボディは、口元から高台までのシャープなラインや質感にこだわって作成しています。
装飾に関しては、単調で冷たくなりすぎないよう、きめの細かい2種類の陶土をブレンドして使い、模様を立体的に削り出し化粧を施した後、針で掻き落としています。
一見、白色一色でわかりにくいと 思いますので、じっくり見ていただけたら幸いです。


奨励賞

友禅訪問着「露草文」 稲木 久(染織)

技法としては糯糊の糸目、叩き糊(糸目用の先金を加工して1回1回叩いて糊を置く)、私の叩き用の糊は糊焼けがしにくい様に作りました。5回蒸しても糊焼けがしにくい様に作りましたが、図案を作る時に蒸しの回数をなるべく少なくする様に考えます。生地白の時色を染めた時糊焼けが少ないので綺麗に仕上がります。

【作品解説】
露草は太陽の下より雨の方が似合う様な気がするので、薄めのブルー地に斜めの線を少々しっかりめに入れ、葉は虫が喰った所や、先の方が変色している方が図案を作るにはおもしろいと思いそれらを基に全体を明るく爽やかな上がりにしようと、この様に決めました。


奨励賞

色切貝飾箱「あやめ」 松崎森平(漆芸)

作品は、指物の木地から、布貼り、下地、塗り、加飾と、全ての工程を自分の手で行っています。自ら長い漆の工程を重ねる中において、伝統工芸の持つ本質を、自分なりに探りながら制作していきたいと思っています。
今回の作品では初夏の風に吹かれ咲くあやめを、白蝶貝に伏彩色を施した切貝と金銀の蒔絵で表現しました。意匠に奥行きを感じるよう手前の花は一段高くした上研ぎ出し蒔絵で描き、明快さを強調するため花脈を書き割っています。対して奥の花はフリーハンドで銀粉を引っ掻いて表現しました。
あやめをスケッチした際に感じた、花を取り巻く空気や、初夏のさわやかな風も表現できないだろうかと思い制作しました。見る人が箱全体を一つの風景にとらえ、穏やかな季節の空気感を楽しんでもらえればと思います。


奨励賞

さくら 帯留金具 岡原有子(金工)

この度は奨励賞誠にありがとうございました。
今回はさくらを題材に選びましたが、この花は昔から多くの作品で表現されていますので、自分の桜を、どの様にまとめたら良いのか考えました。そして桜の花の華やかさを主題に考える事にしました。中央に三つの開花している花を置き、周囲を蕾や赤い葉で囲みました。
元になる金属は、桜の花の白さと柔らかさを表わす為に純銀にしました。純銀を打ち出して、葉には銅を置き、蕾のがくには黄銅を着せました。花のしべには純金で、動きが感じられるように散ばせて、魚々子仕上げで留めました。その後はきさげ、二種類の炭でなめらかな面が出るまで研ぎ、磨き完成です。
硬い金属で作った桜の花が風にそよと揺れる感じが出せていたら嬉しいです。


奨励賞

木芯桐塑彩色「天飛ぶ」 髙﨑麻美(人形)

木を芯にして、桐塑(桐の粉を糊と混ぜた木の粘土)で形を作り磨き上げた後、胡粉で肌を仕上げ彩色しました。
金箔銀箔を、胡粉の白さと岩絵の具の仲介役にして全体のバランスをとり、形を簡略化する事により視線が指先に向かうよう流れを意識しました。
ここ数年、夢や希望をテーマに制作しています。技巧や技術だけでなく、思いやその背景にある景色、刻の流れ等を表現できればと試行錯誤をくり返しています。
この作品に幸せな満ち足りた思いを感じて頂けたらうれしく思います。


奨励賞

有線七宝飾壺「つばき」 嶋田澄子(諸工芸)

今回の作品は「つばき」をテーマにしましたが、壷の形全体を花の蕾に見立て四つに分割する構成からデザインに入り四片のマットを作り、つばきを如何に配置するか思考しました。
五弁の椿の花びらをどこまで単純化できるかに挑戦し、その単純化に伴って色彩も単純にと考え、全体をグレー系にし、花は実際の椿の色を無視しサーモンピンク系でアクセントをつける様にしました。線立ての段階でマットの部分の銀線(高さ1.5mm厚さ0.2mm)を三枚重ねて折り曲げることで変化をつけ、磨ぎの段階でブルーグレーの首の部分を光らせ他の部分は艶消しとしました。