日本工芸会東日本支部

第54回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

銹変陶銀彩鉢 井口大輔(陶芸)

風化したものに興味があり、陶の風化を想像しながら作陶しました。
採取してきた鉄分の多い田んぼの土をベースに独自にブレンドした土を使用しています。手びねりで成形し素焼きをした後、内側には数種の酸化金属を塗りもみ灰を水で溶いたものを掛けます。外側にはもみ灰と土灰などを合わせたものを掛けます。それを1260度で焼成し窯から出た後ワイヤーブラシで磨きあげます。そうすると内側と外側それぞれ異なる銹(さび)のような表情がでてきます。それが銹変陶(しゅうへんとう)という名のもとになっています。その肌に時・風・水など風化を思わせるような流れを銀彩で表現しました。


岩手県知事賞

被硝子切子花瓶 「海風」 小川郁子(諸工芸)

温暖な季節に海から吹いてくる爽やかな風をイメージし、青緑色の花瓶に切子の技法を用いて表現しました。
口元は穏やかなカーブを描くように削り、胴部分には太さや深さを変えた線に加え、伝統的な江戸切子の文様で動きをつけました。
この作品では形に重点を置き、細かな文様は控えめにして、今までになく太く深い線を試行錯誤しながら切り込んでみました。
ガラスは透明なので、いろいろな角度から見て線の交わりや光の映り込みが変化して現れます。ガラスそのものの美しさを損なわずに、切子で少しでも楽しさを添えられたらうれしいです。


朝日新聞社賞

交色透網代花籠 「山のよそおい」 江花美咲(木竹工)

今回の作品のモチーフは晩秋の山です。三色に染め分けた竹ヒゴと下部の茶色のグラデーションによって、紅葉した木々と落葉による、山の風景を表現致しました。
作品に使用した技法は透網代編で、籠の上部の形の丸みを意識して編みました。
胴体部分は三色のヒゴをそれぞれに分けて三層構造の四つ目編みとし、手前から黄・橙・茶が見えるように少しずらして奥行きが感じられるように重ね編みと致しました。
晩秋の気配を感じて頂けたら幸いです。


日本工芸会賞

紗地塗短冊箱「波音」 松山継道(漆芸)

天気の良い静かな陸奥湾をフェリーで渡った時に、青い海に、船の通りすぎたあとの白波が光って、つくりだす広がりの様子とその静寂から、波立つ様子を螺鈿で表現しました。
本当に波の音しか聞こえなかったのでそれを題名にしました。


根津美術館館長賞

結城紬織着物 「月夕」(染織)

結城紬は六世紀に始まり今日まで続いていると伝えられています。今年三月、栃木県の甲塚古墳(六世紀後半)で、結城紬の機織り機の原型とされる地機で機織りをする女性の埴輪が出土したとの報道がありました。
結城紬は経糸・緯糸に手紡ぎ糸を使用し、地機で織り上げます。手紡ぎ糸ですから、よりがなくフワフワした糸を糊で固めて織り、後に糊を抜いて柔らかくします。
本作は、月と星をモチーフにしました。緯絣少し欠けた月をずらして配置することで時の移ろいを、その中を蚊絣の星が降って来るイメージを表現しました。
星は経緯絣を木綿糸で縛り、菱型・正方形・欠けた月は柄の両端を木綿糸で縛り、その上からビニールを渡しかけて縛って防染しています。
二十五年前、徳島県で藍との出会いがあり、藍甕を据えて藍を建て、藍染の作品を作って来ました。今回もその積りでいたのですが、染める数日前に藍が壊れてしまいましたので、化学染料で染めました。


MOA美術館賞

萌陵硯 雨宮彌太郎(諸工芸)

硯石の柔らかな質感。その特徴を生かした円いふっくらとした形をつくりたいというのが今回の作品のはじまりです。
一方この2年程、何もない平面にぽっかり虚の空間が口を広げたような作品を何点か制作しております。硯に向かうことで大地の内部をのぞき込むような神秘的なイメージをつくること。そしてそれを自分の内面と向き合うかのようなイメージを重ね合わせたいと意図しています。また、この縁からえぐり込んだように彫る形は、墨液がとばないように配慮された伝統的な形でもあります。
ゆったりとした柔らかな形と、その対極となる虚の空間。この二つがうまく結び付つき今回の作品となりました。上面は柔らかさを生かすため、また内部をきわだたせるため荒みがきの状態で止め、石の表情に幅を持たせました。
このような評価をいただけました事は何よりの励みとなりました。
どうもありがとうございました。


三越伊勢丹賞

欅造合子 玉井智昭(木竹工)

今回の作品は、木工芸の中で挽物技法(材料を轆轤に取り付け、刃物をあて木地を作ること)によるものです。
作品を手掛けるうえで、一番大切にしていることは、デザインと木目の調和です。本作品は全体のデザイン、及び、もう一つの特徴として、蓋の側面に施した山型の筋部の一部を彫り込み、模様を表現したことです。この両者を際たたせるため、欅でもあえて控えめな木目のもの使用して、デザイン・加飾との調和を図りました。
次に漆塗りの方法ですが、基本的には拭き漆です。今回は筋の一部の彫り込んだ模様をよりはっきり表現するため、最初に筋部のみに黒漆で拭き漆を行い、乾燥後、全体的に生漆で拭き漆を行いました。また乾燥後、今度はデザインした筋部の模様を彫り込み、再度全体的に拭き漆を行い、今後、十五~二十回くらい拭き漆の作業(途中二回程研ぎ作業)を行い艶を出しました。


川徳賞

江戸小紋着尺「千鳥格子」 藍田愛郎(染織)

今回の作品は、型紙を彫り直す。いわゆる昔のデザインを彫師の方に復刻してもらう事から始めました。彫り上がっても、型紙に柿渋を数回に分けて塗り、一年寝かせてやっと使える状態になります。
型紙は、三重県鈴鹿市の白子で作られている伊勢型紙を使いました。「千鳥格子」は、道具彫師の兼子さんに彫ってもらいました。兼子さんの緻密で正確な仕事が今回の作品に向かわせ、形となったのだと思います。
染めで一番気を付けたのは、「型付け」です。およそ九十回の型継ぎ作業は、いかにして根気を切らさないで、目の前の型紙に向かうかでした。
生地は、地元群馬県の絹糸で織った物を使いました。国産糸もまた、後継者がいません。将来的には無くなってしまいます。そういった中で今後、やっていかなくてはなりません。私に何が出来るか考え、小さい力かもしれませんが、「継続は力なり」で頑張っていきたいと思います。 


日本工芸会東日本支部長賞

白磁鉢「結」 大野佳典(陶芸)

九州の天草地方で産出する陶石を原料とした磁土を用い、轆轤で成形します。粒子が細かく粘性に富んだ磁土の性質を活かして、伸びやかさや広がりを感じさせる輪郭線を意識しています。
乾燥の頃合を見計らいながら全体のフォルムを削り出し、その後超硬カンナを使って菱形の模様を彫ります。920度で素焼きをした後、紙ヤスリの番手を変えながら表面を研ぎ出していきます。手跡を消していくこの作業が、作品に緊張感をもたらすと考えています。釉薬を掛けてから、1250度で酸化焼成します。
模様を構成する線と線の交差は、人の営みや支え合う心、そして慈しみを表しています。一つの作品の中に緊張と緩和という二極性を有することで、凛とした強さを感じていただければ幸いです。


奨励賞

灰釉幾何文平組皿 鳥山由貴子(陶芸)

赤土を使い成型しました。
生乾きのときに白化粧土を塗っています。
素焼き後、マスキングテープを貼ります。
次に中央部分にマット黒釉をハケで塗ってから、全体に灰釉を掛けました。
マスキングテープをはがしてから、つや黒釉を吹き付け、還元焼成をしています。
デザインは出来るかぎりシンプルに、幾何学文様を反復して配置しました。
釉薬は緑色を基調として、白化粧土の白と生地の鉄色を組み合わせました。
全体に灰釉を施したことで、マスキングテープのシャープな線が、あまり堅い印象になり過ぎずに済んだのではないかと思っています。
また、中央部分の重ね掛けで得られた深い色が、器全体を引き締めてくれているのではないかと思っています。


奨励賞

菱絽織生絹着物「午後をかがやく」 松浦弘美(染織)

菱絽織は、隣り合った二本の縦糸が、からみ、もじれる事によって透き間を作り、その透き間の連続が模様になって見える織り方です。
平織りの所と、もじり織りの所との織り方の違いで、菱形模様が透けて見えます。
横糸を一本織り込むたびに、絡み合った縦糸を手でさばき、これを繰り返しながら一段一段織り進みます。
染料は、くちなし・藍・桑・はんの実・蘇芳です。
袖に手を通して、きものをまとってゆく時の、わくわくする様な、恥らう様な女性の気持を「午後をかがやく」という題名に込めました。


奨励賞

乾漆蒟醬小箱「秋日」松本法子(漆芸)

素地は乾漆で、被かぶせ蓋造りぶたづくり、楕円形の箱です。箱表面に一枚の枯葉、側面は石畳を思わせる幾何学文様で構成しています。
秋、路上に舞い散り、時とともに色褪せてゆく落ち葉。それを包み込むような穏やかな日差し。儚く美しい秋の日の雰囲気を表現しました。
ふと目にした日常の風景や、日日心に感じた事などを自分なりに表現出来ればと思っています。


奨励賞

赤銅象嵌水滴「M45」 櫻庭愛(金工)

通常水滴というと手のひらで包み込んで持つものや、取っ手がついているものが多いと思いますが、今回私は本体に空間を持たせ、取っ手と本体が一体化したようなものが良いと思いました。
次に技法ですが、打ち出しよりも、自分が得意としている寸法きっちりの箱型で考えていきました。
デザインと技法、この2つの構想を両立させるために、モチーフには工業製品のナットを選びました。
表面には線象嵌と布目象嵌でナットを模様として入れました。
上から入ってきて、下に溜まり、外に出ていく。 水の流れをイメージし、大きさをグラデーションに配置しています。
また少し立体的な図案にする事で、ポップな印象を持たせました。
この作品は、ナットの持つ正六角形という形の美しさを意識して制作したので、その部分を是非ご覧頂けたらと思います。


奨励賞
神代杉象嵌箱 菅原伸一(木竹工)

神代杉の静かな柾目に、黒柿、栃、檜を象嵌しました。
夜の雪あかりを表現したいと思いましたので、象嵌する材の組み合わせも考えながらやさしい雰囲気にしました。
また、天板の線象嵌と縁の象嵌とのつながりは、特に気をつかいました。


奨励賞
木彫木目込「私の夢」 井上春子(人形)

世界中どこにいても皆それぞれの夢を抱いて暮らしているんだろうなとの思いを、アフリカのセネガルの女性に託して形にいたしました。
木彫木目込という技法は、桐の木から頭胴体、手足を別々に彫り最後に接合する作り方(寄木造)で、肌には胡粉を使って仕上げます。
濃い肌の色は難しさもありましたが、大胆な服の色や柄が合うので今迄にない新鮮さを感じました。またセネガルの女性はおしゃれで髪を整える美容院のような所があちこちにあるようです。髪は細い針金を和紙で巻き三本ずつ三つ編みにしました。
難しかったのは、手を三点(あご、袖、膝)に合わせることでした。
自由に思いのまま楽しく作った作品でしたので、受賞は思いがけなく、大きな元気をいただきました。ありがとうございました。


奨励賞
泥七宝小箱「雪中の花」 法澤真知子(諸工芸)

寒風の中、優雅に揺れる寒椿の美しさに心惹かれ、今回の作品のモチーフとしました。「雪中花」という別称にもゆかしさを感じ、雪解けのころのしみじみとした暖かさを感じていただけるよう心がけて作りました。
泥七宝の技法を使いました。泥七宝は、唐土、白玉、珪石の材料に顔料として土や鉱物の粒子である岩絵の具などを混ぜ合わせて、そのまま釉薬として使います。文様として立てた真鍮線の高さまで釉薬を重ね、13回焼成しました。最後に砥石で真鍮線を研ぎ出すとともに、色合いを整えていきます。今回は下地に使った黒が良い表情を出してくれたように思います。
天然の顔料には暖かみがありつつ、危うさもあります。そんな自然の有り様に寄り添える作品を作っていきたいと思っています。