日本工芸会東日本支部

第55回東日本伝統工芸展 受賞者のコメント

東京都知事賞

乾漆盛器「北颪」 井上俊介(漆芸)

本作のモチーフは、東北での生活で感じた山から吹き下ろす自然の心地良い冷たい風。
素地は漆と麻布から成る乾漆で成形し、器の口を不規則な波型に削ることで、風と山々に囲まれた会津若松の盆地を表現しています。
漆芸技法の平文(銀)・螺鈿(貝)・卵殻(鶉の卵)の研出し蒔絵で風・氷・雪を表し、素材の交わる大きさのリズムを変えながら風の立体感を出せるよう構成しています。
3種それぞれの魅力を感じられるよう各素材を同じ形に加工し張り付けています。
乾漆の形と表面的な装飾のバランスが難しく試行錯誤を重ね、結果今回の評価を頂けたことは何よりの励みになりました。より一層自分なりの表現を追求していくことに精進していきたいです。


岩手県知事賞

欅拭漆盛器「瀬」 本間 潔(木竹工)

この度は栄えある賞を戴きまして誠にありがとうございました。
里山の山懐を散策していて冬から春に季節が移ろう時、雪解け水が瀬となる様子をモチーフに制作したものです。
醸し出す木目模様に、見込部分と輪郭に添い施す流れをイメージした曲線、そして造る気持ちが融合一体となり模索していた表現ができたように思います。
試行錯誤をしながらこだわり続けて創作をしてきましたが、今後も現代の感性に即した創造性を共感出来る制作に心掛けていきたいと考えます。そして木工芸を通して地域の人、社会と関わっていけたらと思っております。
選んで戴いたことに感謝し、この喜びを更なる力に変えられるよう精進して参りたいと思います。
ありがとうございました。


朝日新聞社賞

硝子花器 山田輝男(諸工芸)

カットグラス(切子)のパターンは二次元構成で出来ています。
でなければその幾何学的パターンは成立しないからです。
菊繋ぎ、矢来、篭目、魚子、などの伝統的幾何学パターンがそれですが、切り込みの幅、角度、交差する溝の深さなどが、一致する事でパターンは成り立っているからです。
作品の制作過程には思考と方法に独自に意味を見出す事で見えてくる形があります。
この作品の場合「切子のセオリー二次元構成を無視して制作してみる」ことですが、もうひとつ、切子は彫る事で幾何学模様を表しますが、掘られた部分では無く彫らずに残った部分が視点を誘う「地と図の逆転」も企んでみました。
思考に副い、手が動いて完成した作品で思いがけない受賞となりました、ありがとうございました。


日本工芸会賞

木彫木目込「牧野」 竹腰米子(人形)

この度は、日本工芸会賞をいただきまして、身に余る光栄と存じます。このような素晴らしい賞を受賞する事ができましたのもひとえに先生方をはじめ先輩方のご指導のおかげだと心から感謝しております。
今回の作品は桐の木から人形の形を彫り出し、胡粉を塗り、その上から布を木目込むという手法で作りました。
制作にあたり特に気をつけた点は、頭から巻き付けたマフラーが重く感じられないよう、薄い布の目に色糸を通して細い縞模様を作り木目込んだ事です。土の香りのする女の子の元気を感じていただければ幸いです。
人形表現の難しさと魅力を日々感じております。向き合う事のできるものがある幸せに感謝し、より良い作品を目指して造り続けていきたいと思います。


根津美術館館長賞

蒔絵螺鈿箱「山芙蓉」 松崎森平(漆芸)

この度は思いもよらず大変立派な賞をいただき、本当にありがとうございました。自分にとって東日本伝統工芸展は、学生時代から出品し続けている思い入れの深い展覧会で、作家活動の原点といえます。力のこもった良い作品を出品したいと、日々漆の仕事を積み重ねてきた事を評価いただけて、本当に嬉しいです。
作品は、木地作りから漆下地、装飾まで全ての仕事を通じて、自分の手で行っています。今回は桧を組んだ指物に、曲木を合わせ形態の変化を求め制作しました。箱の形態にあった意匠をと、スケッチを重ね、柔らかな山芙蓉(山芙蓉は白根葵の別称)のイメージを蒔絵で表現しました。
螺鈿を貼り詰めた光の中に、照らされて浮かぶ花や葉の表情を、金粉や銀粉を暈かし蒔き、漆を塗り込めた後研ぎ出す、研ぎ出し蒔絵で描いています。研ぎ出し蒔絵と螺鈿を併用する箇所で技術的に苦労しましたが、蒔絵で絵を描く楽しさを感じながら作業することが出来ました。
漆芸の装飾は、日本の季節感や美意識が凝縮されていると先人の作品を見て感じてきました。自分の感性で、少しでもそういった歴史に近づけるよう精進していきたいと思います。


MOA美術館賞

肩衝釜「岳」 長野新(金工)

この度は、MOA美術館賞を頂き誠にありがとうございました。
私は作品制作の際、いつも自然の中からモチーフを選びます。今回の作品は、海、岩、岳をイメージにし構成しました。和銑が持つ独特の膚の美しさと造形のバランスに重点を置きつつ鐶付の形や炉に据えた時の事を想いながら制作しました。
鋳造技法は惣型鋳造です。天井の亀甲と胴体の段になっている部分、鐶付の位置を図案通りに配置し塗り込みと吹膚には特に配慮いたしました。また鋳込みの際、同心円ではないため注湯する勢い、温度などに注意しました。
炭点前の時、釜を上げた際に胴体の造り込みに海辺の岩や海から見える岳を感じて頂けたら嬉しいです。


三越伊勢丹賞

大髙美由紀 紬織絣着物「垂水」(染織)

「三越伊勢丹賞」、このような栄えある賞を頂戴し、誠にありがたく御礼申し上げます。
思いもよらない受賞は、驚きとともに喜びもひとしおです。
作品は、経糸と緯糸に絣を使った経緯絣です。経絣は、白から紺にぼかして染めて、線の太さや地糸と絣糸の順序、位置を少しずつ変化させています。小さな緯絣でアクセントをつけました。絣のずらし方と強弱で、水が流れ落ちる動きや勢い、その空間を表しました。
その時々に取り組んでいる作品が、何らかの形で次に繋がっていくと思って制作しています。今回の作品を評価していただけましたことは、大きな励みになります。
これまで織り続けてこられたのは、多くの方にお力を分けていただいたこと、様々なご縁によるものとあらためて感謝しております。
この受賞を糧に自分らしい表現を念頭に精進してまいります。


川徳賞

割貝蒔絵桜花文茶入れ 小椋範彦(漆芸)

いままで東日本伝統工芸展では一度も受賞経験がなく、もう受賞のタイミングを逃してしまったと諦めていました。この度の受賞の知らせをいただき、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
木地は厚さ1ミリもないケヤキを使用しています。本堅地下地法による塗りで、自然な桜の花の状況を描き伏彩色技法の白蝶貝で表現しています。周りの金地は白蝶貝よりも厚く蒔き重ね、平滑に研ぎ出しています。側面は切貝技法で特に色味の強いアワビ貝を使用しています。
この度の受賞を励みに精進して制作して行く所存です。


日本工芸会東日本支部長賞

千筋捻り花籃「光立つ」 磯飛節子(木竹工)

この度は日本工芸会東日本支部長賞をいただきましてありがとうございます。
3年前より取り組んできた、千筋捻りの技法での受賞は、たいへん嬉しいかぎりです。
千筋捻りとは、真竹の平割り材に捻りを加えV字形に曲げ、組む技法で制作したものです。
光をイメージした今回の作品は、底、上縁ともにゆるやかなカーブを持たせ、動きを出しました。少しずつ細くした竹ひごの捻りの効果が 上部に集まり、角度によって異なる光の見え方の変化を楽しんで頂ければと思います。


奨励賞

押点文器 須藤訓史(陶芸)

この度は、奨励賞を頂き、誠にありがとうございます。
地道に頑張ってきて本当に良かったと思います。
私はいつも自然界から作品のヒントを貰い制作しております。今回は「雪」です。
ある初雪の早朝、一面に広がるキラキラと光る白い世界に感動を覚え、それを作品に活かせないかと考え制作致しました。そのため今回はより白い土に変え、雪の結晶を施した点をボディー全体に押し、さらに釉薬をやや厚めにコンプレッサーで掛けました。焼成は1250℃酸化にしました。
今後、人に感動を与えられる様な作品作りができるように取り組みたいと思います。


奨励賞

紬花織帯 楠 光代(染織)

このたびは、奨励賞を頂きまして有難うございました。
今回の作品は絣と花織を組み合わせものですが、絣を合わせつつ、地の部分に緑色のグランデーションをつけながらその上に多色の花織を織り込んでいく作業でしたので、それぞれに気を配り一段一段注意を払いながら織っていきました。
「緑水」はみどり色の池をイメージしたもので、池のまわりの木々や花、ひかりなどが水面に映ってキラキラ光る様を表現しました。水面を吹き渡り木々を優しく揺らす爽やかな風を感じて頂けたら幸いです。
今回この賞を頂いたことを励みとし、自分が目指してきた織をこれからも向上心をもって続けていきたいと思います。
本当にありがとうございました。


奨励賞

蒔絵漆箱「濤」 須藤靖典(漆芸)

この度、このようなすばらしい賞を受賞することができ、これもひとえに関係各位の皆様のご支援、ご鞭撻によるものと心から感謝いたします。
蒔絵漆箱『濤』は木地を桂材、下地は堅地法で仕上げています。意匠としては、月夜に照らし出された波のうねりを表現するため、天坂に月を側面には月夜に浮かぶ波を配置しました。具体的な制作方法としては、天坂の月を幻想的に表現するため、叩き模様を付け、その叩いた模様部分に数種類の丸粉と炭粉を蒔付け、塗り込み、その後、研切り蒔絵で仕上げました。
また、側面は、幾重にも重なる波の立体感、奥行き感を表現するため、銀の研出蒔絵と炭粉を使った高上蒔絵を併用するとともに、月の反射光を表現するために螺鈿、銀露玉を加え表現してみました。しかし、表現の未熟さを感じざるを得ません。今後はいま以上に自己感性と技術を磨きつつ、制作に勤しみたいと思っております。更なるご指導、ご鞭撻の程御願い申し上げます。


奨励賞

ツノダシ 金具 竹之内恵美子(金工)

金工金具は、刀装具の伝統技法を受け継ぎ制作され、現代では装身具としてもその技術が生かされています。私も当初は、装身具の製作から始めましたが、今では、金工金具の小世界に魅せられて切磋琢磨しております。
題材は自然から生き物を選び、具象化することが多く、今回は海水魚を選びました。
打出した赤銅の地金に純金や純銀を象嵌して一匹ずつ仕上げ二匹を蠟着し、対で泳いでいる様に表現しました。
この受賞を励みにさらに技術を習得、伝守しつつ、新たな作品制作を心掛けてまいりたいと存じます。
ありがとうございました。


奨励賞

栃拭漆盛器 木村作江(木竹工)

この度は、思いもかけず奨励賞を頂き有難うございます。
限られた木の大きさから、その木を生かしつつ、動きのある形を表現したい思いで横中心線を少し斜めにすることからデザインを考えました。そうする内に形はそら豆に辿り着きました。
今までは、木を厚めに刳っていましたが出来る限り薄くする事に挑戦しました。
形を生かす為に漆の作業では杢を全面に表わさず控え目にしました。その時木との対話が出来たように思います。
又漆の色合いもいつもより濃くし、艶も強くして動きのある流れの線を意識しました。やさしく包み込む空間が表現出来たらという思いも生まれてきました。
それらが良い結果になりました事は本当に嬉しく思います。
体もそこここ痛み始めて作業がつらく感じる時もありますが、この受賞をきっかけにいたわりながらこれからも精進して参りたいと思います。
授賞有難うございました。


奨励賞

木芯桐塑木目込「立夏」 内田 陽 (人形)

この度は思いがけず賞を頂き、大変嬉しく思っております。
私は、人形創作に入って四十年の永きにわたり、その間、今は亡き家里先生、重田先生、そして現在は玉置先生に精神的、技術的にご指導いただきなんとかここまで参りました。先生に深く感謝申し上げます。
今回の作品は、若き女性が自らの生き方を想い、期する姿で、伸びやかさ、さわやかさを表現できたらと、若々しい色彩に染めたり、加工した布を木目込んで作成いたしました。
賞を励みにこれからも作品に取り組みたいと思っております。


奨励賞

有線七宝蓋物「御衣黄桜」 岡本美子(諸工芸)

この度は奨励賞をいただきましてありがとうございました。思いがけない受賞に驚きと、出品を続けてきてよかったと嬉しい気持ちでいっぱいです。新作展から支部展と名称は変わりましたが、長いことこの作品展に育てていただきました。ご指導に感謝申しあげます。
七宝は何回も高温の炉に入れます。それに伴い金属の胎の歪みも気にしながら制作することになります。今回の作品は、薄緑色に咲く稀有な桜です。名前の持つ美しさとその響きに古のにおいも感じて作りました。色彩は雅が感じられる様に。銀線の幅の違いと菱文を斜めにずらすことで動きも表現出来たように思います。
選んでいただき元気が出てまいりました。これからも努力を重ねてゆきたいと思っています。