日本工芸会東日本支部

第56回日本伝統工芸展 初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第56回日本伝統工芸展」が2009年9月25日(金)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


梅澤知弘

白磁鉢 陶芸(No.30)

磁土を使ってロクロ成形をしています。磁器の持つ特性を生かすために、シンプルでシャープな形を目指して製作しました。


黒部駒子

染付鉢「晴れの日の紫陽花」 陶芸(No.92)

梅雨の中休み、夏の空気を感じさせる眩しく晴れた日。額紫陽花のはなびらが密集した葉の中で、楽しげに円を描いている様子を、筆で勢いよく表現しました。紫陽花を包み込むような全体の形に対し、始まりでもあり終わりでもある口元に緊張感をもたせるよう意識してつくりました。
染付は呉須の濃淡と、わずかな彩度の差でほとんどを表現します。その物の色、光や空気、温度、湿度などを押しつけることなく人それぞれの記憶と、想像に添ってくれる力が、青にはあるのだと思います。


須藤訓史

波紋壺 陶芸(No.132)

今回の作品は、白土を使いロクロで形成しました。そこに水面に落ちる水の波紋のようにまるく模様を彫り、作品に立体感をだすためスポンジで白化粧をし、土が乾く前に大小の点を全体に施しました。そして750度で素焼きし、本焼きは透明釉を薄くかけ、1250度で還元焼成しました。
前々から点だけの集合体で、何か模様ができないかを考えていたところ、雨の日の水面にできる無数の波紋の様な、見ていてなんとなく落ち着く不思議な感覚をイメージし、制作に挑戦してみました。
それと作品全体に模様を施しているため、ボディーのラインはなるべくシンプルにし、色彩も使わず白土と白と白化粧の白で表現してみました。


土屋美則

氷裂紋組鉢 陶芸(No.158)

この作品の製作に当たってのテーマは、「緊張感」でした。その為、器体、文様、色は各々次の様にしました。
・器体は薄く、高台は高く狭く、特に口縁は極力薄くし、シャープさを指向しました。
・文様は、冷たい氷の裂ける瞬間をモチーフにし、象嵌により表現しました。
・色は、器体を黒、文様を白とし、硬い質感を目指しました。
「緊張感」が表現できていれば幸いです。


早川 研夫

マット釉吹墨白樺文鉢 陶芸(No.196)

私の住んでいる信州には、美しい白樺の林や森が所々にあり、そのような場所を見つけると思わず見入ってしまいます。私は白い樹皮の白樺が好きでお気に入りの場所に時々スケッチをしたり、写真を撮りに行ったりします。白樺は冬枯れの中でもよく目立ちます。「葉を落とした後の白樺がずっと続く静寂な林の様子」をイメージしながら鉢の側面の図柄を考えました。鉢の形も図柄が収まるように工夫しました。白樺林の遠近感を出すために図柄の帯の幅に変化を付けたり、地面と空の色合いを変えたりしてみました。樹木の部分をマスキングして、背景と地面に二種類の呉須を吹きかけて絵付けをしています。呉須の吹きかけ加減を調整することでも背景と地面の違いを出しました。落ち着いた雰囲気の色合いを出すために素地の磁土にマット釉を掛けて焼き上げています。


野口洋子

乾漆椿組皿 漆芸(No. 439)

ふっくらと柔らかな椿の花をイメージした、花形の組皿です。椿の花に現れる独特な模様は、自然が生み出す調和のとれた美しさで、私が今とても心惹かれるところです。
紅や白の混じり合いが美しい絞りや白斑などの模様を、五枚の皿それぞれに、異なった図柄で配しました。紋様の美しさを活かすため、花形はごくシンプルな形にまとめました。素地は和紙と麻布を貼り重ねて形造ったもので、これは乾漆という古来からの技法によるものです。和紙の肌を活かし、紅い花は朱の塗り立て、白い花は、白漆の塗りたての上にプラチナ箔の砂子を蒔きぼかしています。紅い花にはプラチナで、白い花には朱漆で、表裏両面に同様の図柄を施しました。最後に花芯ですが、雄しべの花粉や線は肉持ち良く調整した漆を用いて、少し盛り上がるように描きます。乾燥の後、花粉の部分には、純金砂子を蒔き詰めて線の上には、青金砂子を蒔き詰めて完成させました。


近藤好江

紬織着物「緑蔭」 染織(No.307)

夏の一日、何百年もたった杉木立ちの中を歩き、ふと腰を下ろし上を見上げた時、空に向かって逞しく枝葉を伸ばすその生命力に圧倒されました。
その印象を経絣という技法を用いて、紬織で表現してみました。
染色は先、経糸を槐(えんじゅ)で黄色に染め、それに藍を何度も染め重ねることにより4色の緑色に染め分けました。更に緯糸で裾から肩にかけてグランデーションを付けることにより、作品に奥行きがでるよう織り上げました。


篠原優子

おぼろ型染着物「雨過天晴」 染織(No.313)

此度は、おぼろ型染着物「雨過天晴」で初入選が叶い感激しています。今夏の多雨の日々、雨上がりの爽やかな空気と透明な空色を布に写せたらと制作しました。
おぼろ型染は、紅型と同じ琉球古来の染であり二枚以上の型紙を重ねる技法です。昭和三十年代はじめ頃迄、沖縄でも言葉だけが伝えられていた「まぼろしの朧型」を古裂に見出し復元されたのは人間国宝の鎌倉芳太郎先生でした。大正十年以降、沖縄文化の収集・保存と復興に尽力された先生は、美術史家であり数々の美しい型絵染を万葉の心で染めた作家でもありました。
姑、篠原晃代(正会員)は、永年に亘り先生から直接この朧型染の技法を学ぶ幸運に恵まれ独自のおぼろ型染で作品を作り続け現在に至ります。
私が、この染織に出会いましてから長い年月が経ちましたが、おぼろ型染を制作する事に感慨を覚えます。鎌倉先生から姑へそして私が受け継いだ技をどれだけ磨いていかれるか、そして時代の心を写していけるか今後も努めていきたいと思っています。


佐藤光男

鋳紫銅面取香炉 金工(No.492)

私は紫銅にみせられ、鋳金の仕事を続けています。斑紫銅、朱銅とも言いまさに伝統的色合いです。色のよい紫銅を出すために、材質の吟味から始めます。不純物の多い古い材料と新しい材料(銅合金)を五対五位の割合で溶解し、1200度位で鋳造します。鋳造後は鋳肌を落とし仕上げをします。その方がきれいな紫銅が出ます。次に紫銅焼きをします。作品の周りを5、6センチ空けて煉瓦で囲みます。作品と煉瓦の間に白炭を入れ、炭の上部に火種を載せます。ゆっくりと火が降りて炭が真っ赤に起こる頃、作品もあずき色から真っ赤に変わります。その加減を見ながら煉瓦を崩します。私は時間をかけて焼きます。厚い紫銅を出すためです。溶けて変形する少し手前まで焼きます。
紫銅の赤と地色の渋く深い黒の色具合が、何とも言えないものがあります。この作品はもう少し紫銅の厚みがほしかったところですが、うまくできた作品です。


小野寺穰

黄蘗寄木造拭漆八稜箱(きはだよせぎつくりふうるしはちりょうばこ) 木竹工(No.539)

木目の細かい黄蘗材を使いました。
寄木部分の周囲と、身の重ね目の黒い線は、黒柿(くろがき)です。
箱を手に取った時、器として丁度良い、薄さ、軽さに仕上げる事を心がけました。


花輪陽介

黄蘗拭漆盛器(きはだふきうるしもりき) 木竹工(No.588)

今回私が出品した「黄蘗拭漆盛器」は、挽物と拭漆の技術を用いて制作しました。 材料は約1年前から歪みを取る目的で、仕上げ一歩手前の厚みまで削りました。仕上げの際には、何かを盛ってみたいと思っていただける様な形を心掛けました。そして外側には、高台とのバランスに気を配り、スッキリとした形をイメージして削り出しました。器物の軽量化と同時に、器の縁が薄くなりすぎぬ様に、慎重に時間をかけて削りました。木地仕上げの後は約2ヶ月かけて、拭漆を施しました。
挽物によるスッキリした形と、拭漆による黄蘗材の美しい質感を、見ていただければ幸いです。


大豆生田博

「変身!」木彫木目込 人形(No.640)

ヒーローにあこがれる男の子が、真剣にヒーローになろうと変身ポーズをするかわいい姿を作成しました。
技法は木彫で、頭、手、足は胡粉仕上げで、衣裳は木目込で仕上げました。


小谷ハルノ

「チャナン(供物)」木芯桐塑木目込 人形(No.643)

バリ島を二度訪ねた私は、緑の田園と宗教儀礼を重んじる人々のやさしさにふれ、今回の人形のモチーフ、「チャナン」を捧げる女性にいたしました。神々の島と呼ばれるバリ島では、寺院祭礼「オダラン」を筆頭に数多くの儀礼がありますが、「チャナン」とはヤシの葉で作った四角い皿状の器に色とりどりの花びらを盛って、緑の葉を刻んでのせ、日々、門口にお供えするのです。カゴに入れているのも目にしましたので、今回はカゴに、代表的な花・プルメリアを入れました。
木芯桐塑の土台に木目込んだ衣裳は、バティックのサロン(腰布)とクバヤ(上衣)にスレダン(帯)を結んだものです。
制作中は、青銅打楽器、ガムランの音色の懐かしい旋律に後押しされていたようです。


髙碕麻美

「天籟」桐塑彩色 人形(No.658)

さやさやとそよぐ風。はらはらと天から降り注ぐ水の粒。天から地から、とめどなく湧き出る様々な音と五感に染み渡るリズム。古布や帯などを手に取りその感触を楽しんでいる時、何気ない日常の品々や光景から、たびたび脳裏に人形が姿を現します。
「天籟」も早朝、円覚寺の霧に覆われた木々の間から姿を現しました。
あえて線を省略する事により面を生かし、色による変化で深みを出そうと試みた初めての作品です。前作までは仕上げの中心に布を据えていましたが、今回、テーマに沿った表現方法として新たな彩色技法を取り入れ、岩絵の具・マチエール等、日本画の素材と箔を中心に仕上げてみました。
一瞬一瞬の姿捉えるだけでなく、内面からの精神的な強さや静けさを感じられる人形を作りたいと常々思っています。
凛とした人形の立ち姿にその思いを感じて頂ければ幸いです。


河田貴保子

泥七宝合子「薔薇の糸」 諸工芸(No.693)

泥七宝が好きです。奥深い色、しっとりした質感、真鍮線の鈍い金色との絶妙なコントラストに魅せられています。
まず、真鍮線を金属の硬さがやわらぐように表面を荒らしてからなまし、植線します。二本、三本と合わせて変化をつけました。釉薬は泥の素(唐土・白玉・硅石)に顔料として上絵具や自然の土などを混ぜて作ります。微粉なので厚盛りはできません。15回焼成しました。温度は750度~800度です。研ぐことを計算して釉薬を重ねます。作品では研いで鮮やかなバラ色が真鍮線に沿って出てきましたが、10回目に焼成した色です。
表面の細かい無数の穴は泥七宝の特徴です。どこにどの位穴を作るのか難しい計算です。釉薬の性質を考えて置いていきますがなかなか思い通りにいきません。
四~五年前から「織」をテーマにしています。今回の作品は、色の糸・真鍮線の糸で三種類の模様を織り込んで一枚の布にし、合子に掛けたことをイメージしました。