日本工芸会東日本支部

第57回日本伝統工芸展 初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第57回日本伝統工芸展」が2010年9月22日(水)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


有光志津絵

六花図組皿 陶芸(No.00006)

 このたび「六花図組皿」で初入選致しました。
 この作品は素材に磁土を用い、黒釉を施してあります。黒釉を掛けることによって、磁土という素材が、見た目からは全く分からなくなりますが、素材のもつ強さや印象が、焼き上がった際に、土ものとはどこか違うように感じております。
 また、技法は柔らかい土を絞り出すイッチン技法による線描きと、部分的に上絵も施してあります。
 六花とは雪結晶を表わしており、百五十年ほど昔に『雪華図説』が出版されてから模様として流行し始め、様々なかたちで反映されてきました。
 六花は別名「天花」とも言われるのですが、無数に降る雪に、同じ形は二つとない天からの手紙なのかもしれません。そのような自然の恩恵を、自分というフィルターを通して組皿五枚に表現いたしました。
 ご高覧いただけましたら幸いです。


今泉毅

黒彩ノ器 陶芸(No.00034)

 黒のやきものというのは陶芸を始めた頃からのテーマでした。多種多様な金属の発色をテストするうちに、現在の鉄主体の釉に辿り着きました。掛分をやり始めたのは、気に入っていた二つの黒釉を同時に使ってみたことです。そうしたことで一色の黒より黒の色自体が対照化され、調和とともに、一色一色が明確になると感じたのを覚えています。陶における素材の多様な可能性、現代においての陶というものの可能性を、自分なりに追及していきたいと思います。


岩井純

六華天目釉組鉢 陶芸(No.00036)

 天目釉・結晶釉を中心とした作品を作っておりますが、両釉とも金属の微粉末を入れ、酸化焼成しながら、冷却時に徐冷することにより、釉表に金属の結晶を成長させます。黒の天目に、白の結晶を吹きつけることで、釉調が青に変化します。結晶釉の流下しやすい性質を利用し、より効果的にする為、中心に向かって、針で溝を彫ります。
 私の窯は『六華窯』といいます。窯名に因み六華天目釉として2007年、ローマでの個展で発表をした時、天空の星座を想像させるとして、主催のインタ―ナショナル・アンティノー美術財団のラウラ・モナケーシ理事長から「アンティノ―の星」と命名されました。
 アンティノ―はローマ帝国のハドリアヌス皇帝が寵愛し悲劇的な死を遂げた美少年で、皇帝はその美しさを神格化し「アンティノ―星座」として永遠に遺そうとしました。


奥田冬門

線文象嵌鉢 陶芸(No.00061)

 今回の作品は、線象嵌と彩泥の技法を使って製作したものです。黒色の土で鉢を成型し、赤色の土で全体をコーティングした後、白土で線文の象嵌を施しています。器の形はシンプルに、赤色の塗り土を適度に削り残し、線文のデザインは、全体が中心に集まって消えていくような景色を目指しました。赤い霧が立ちこめる中、白い光がはっきりとどこまでも遠くへ続いているように見えるでしょうか。


星野友幸

青白磁—抹銅彩鉢 陶芸(No.00207)

 素材は磁土、成形はロクロで行っています。
 カタチ・色・質感・文様のバランスに気をつけて製作しました。
 まず、ややマットな青白磁釉を全体に薄く施します。
 その上からカットしたウレタンを使って不ぞろいな市松模様にマスキングをし、赤く発色する辰砂釉を吹付けてあります。
 淡い釉薬に、ぼやける辰砂、不ぞろいな市松だけだと締りがないので、口縁はシャープにしてピリッと感を出しました。


百田輝

刻文大鉢 陶芸(No. 00241)

 鉢は、高台を小さめに、すっと伸びていくような形をこころがけました。
 文様の部分に撥水剤をぬり、全体に白化粧土をつけます。
 金属製のヘラで文様をいれ、撥水剤をかきおとして象嵌し、素焼きします。
 素焼き後は、マスキングして釉薬を掛けます。
 本焼きは、灯油窯による中性炎で、本焼き後上絵付けし、上絵焼成して完成です。
 以上、簡単ですが解説といたします。
 勝手なものばかり作っていますが、ひとりでも多くの人に共感して頂ければ幸いです。
 


安田直子

金魚文鉢 陶芸(No.00245)

 初めて挑戦した大物が壺でした。
 高く土を立ち上げ、外側を触らず、内側から膨らませていく時の土の動きの滑らかさ、柔らかさ、空気によって膨らまされた風船ような張りと丸さ、自然な形が生まれたときの興奮は壺でしか味わうことが出来ない感覚でした。
 なぜ金魚を描くのか…。頼りない体が水を切って泳ぐときの滑らかさ、しなやかさは轆轤を挽いているときの手触りにとても似ている気がします。脳の同じところを刺激されます。
甕という小さな世界に生きているのに、飼い主など知らん顔で気持ち良さそうに飄々と泳いでいる姿は、修行中の私にとっては、とても自由に生き生きとして見えました。
限られた小さな世界を覗いて、想像を膨らませることは、私にはとても面白い作業です。大胆で華やかな仕事は出来ないかもしれませんが、自分らしく、小さな世界を少しずつ膨らませて、これからも、ものを創っていけたらと思っています。


若杉集

北郷谷馬の背土焼締急須 陶芸(No.00262)

 栃木県益子町内各所から様々な種類の陶土を集め、自ら土を漉して急須制作を中心とした仕事をしています。
 今回の作品は、昔から陶土を掘っていた「北郷谷」地区の通称「馬の背」という場所で採集した陶土で作りました。
 この土は火山灰が風化して出来た陶土で、粒子が細かく耐火度も高い益子産の中でも良質のもので、焼締急須などには良く合った土でと考えています。
 今後も焼成方法や焼成温度など工夫し、益子の土の色や性質などを生かした、様々な表情の急須などの作品を創って行こうと思っています。


大谷智恵

組紐「季節の燦燦」 染織(No.00286)

 古代大和組を技法として綾竹台で製作した作品です。日本の伝統色の朱と緑を重ねた表現から離した表現に変化させ、二色の帯の対比で伝統色を鮮やかに美しく印象深く表現して組んだ点が見所です。
 中心の出し入れをリズミカルに変化させ二色の帯に独立させたデザインの過程は、芽が出て実る季節の変化と統一も感じられます。
 季節の色の変化で香と音も連想して頂けるように作品名に燦燦と二文字入れました。
 組紐は重り玉が糸に付き重なり合いながら手仕事の音を出します。陽の光が輝く中での朱色の色彩の重さと重り玉の重さも感じて頂けたら幸福です。四季の景観が美しい時期の春の緑と秋の朱色から紐一本でその景色を思い浮かべ、一枚の絵になり色も香も音も紐を目にした人それぞれの記憶の中で生かされ、風景として社寺であり新緑であり紅葉であり、伝統色の朱が鮮やかな色彩として残して頂けたらと願います。


尾崎久乃

友禅臈纈着物「千草の庭」 染織(No.00290)

 この着物のモチーフは、盛夏そこかしこで咲き乱れる白粉花から生まれました。昼間の暑さが残る夕暮れ時、生気に満ち溢れた白粉花は、白く浮き立ちその存在を誇示していました―気ままに伸びる花弁と直線的な葉とのコントラスト、点在する円な種子の面白さがデザインの核となりました。着物の地色は夏の明るい薄暮をイメージして淡い紫がかったグレーに決め、裾に向かって少しずつ色を濃くしました。これは白粉花の群生する様を表現しています。制作の手順は、染め上がった時白い線が表れる糸目糊を全体の輪郭線に用い、白い花は蝋を溶かして布に塗って防染するローケツ染めの技法を用い、布本来の柔らかな白をそのまま生かしています。柄に色を着けた後その上を蝋を含ませた筆で細い線を何本も引き、又色をかけます。蝋の温度、厚み、線の本数に因って同色をかけても複雑な陰影ができますが、それもローケツ染めの魅力のひとつだと思います。


田中政江

藍型染着物「波濤」 染織(No.00319)

 春の日差しに煌めく波、冬の荒海も季節と共に穏やかな春の海へと変わるようすを藍型染の技法を使って作品にしました。この作品は冬の寒々とした海が春の訪れと共に柔らかい日ざしを浴びキラキラ輝くようすを二枚の型を使って表現しました。一枚の型紙は波間に白く泡立つ様を藍で染め上げ、さらにその上から寄せては返す波の別型を置いています。春の光を浴びた海の感じが出るようにと二回目は草木染で染めています。
 二枚の型を使い、それを藍と草木で染め分けることによって、爽やかな奥行き感のある作品に仕上げられないかと考えました。型染の特徴でもある規則正しいリズム感を波に押し寄せ舞い散った波しぶきは藍の白場で表現しています。藍の色調と草木の色調をほどよく溶け込ませることができたかなと思っています。


音丸孝

彫漆箱「蘭華」 漆芸(No.00387)

 古来、中国より、蘭は竹、梅、菊と並び、四君子のひとつとして縁起のよいものとされてきました。蘭の花が放つほのかな香りは人の心を浄化し、その姿は君子のように美しく気品があるとされています。そのような花を、現代の彫漆という技法を使って表現してみようと努めました。
 彫漆とは、漆を数十回、ないし数百回塗り重ね、塗っては研ぎ、塗っては研ぎを毎日繰り返し、最低でも半年はボディ作りにかかる大変根気のいるものですが、作品が仕上がった時の喜びは、他の何ものにも代え難いものだと思っています。
 今回は、色漆の割合を少なく抑え、全体に黒で統一感と調和をかもし出そうと気を遣いました。漆のもつ独特の静寂、美しくちりばめた蘭の花の鼓動―リズムを感じて頂ければ幸いです。


加藤倫子

花かいどう蒔絵飾箱  漆芸(No.00392)

 花かいどう蒔絵飾箱の制作にあたり、まず、第一に桜の花よりやや遅れて咲き出す花かいどうの美しさに心奪われ、その美しさを、蒔絵を用いて箱に表現したいと思いました。
 蒔絵と一言で言いましても様々な技法があります。その中でも今回私が主に用いましたのは研出蒔絵と螺鈿の技法になります。
 研出蒔絵は漆で絵を描いた上に金粉や銀粉を蒔いた後、上から漆を塗り、炭で漆を研ぎ出すことで金や銀を浮かびあがらせる技法です。花かいどうの美しさを写実的に表現するため濃淡の出し易い研出蒔絵を用いました。螺鈿とは貝を貼り上から漆をかけて研ぎ出す技法です。今回は色の強い鮑貝を短冊状に切ったものを用いました。太さを二種類にすることで表現に幅を持たせています。
 美しい花かいどうを見た時の感動をそのままに漆という素材を通し、「箱」という空間に今一度咲かせた花かいどうを一人でも多くの方に観て頂ければ幸いです。


因幡秀岳

打込象嵌花器「平安の雅」 金工(No.00464)

 本作品は平板状態の銅を鍛金技法を用い、金槌でたたいて花器に成形し、模様部分に用いた赤銅を打込象嵌技法で埋め込みました。さらに金銷を施しました。
 風に揺れる御簾が光に輝いて見えるような模様に、平安時代の絢爛優美な世界を表現できたのではないかと思います。


加藤貢介

鍛鉄四方鉢 金工(No.00480)

 「鍛鉄四方鉢」は、厚さ1.5ミリ、直径42センチの鉄の円盤を素材として作られています。技法は鍛金です。まず、松炭にて火をおこし素材を加熱します。素材が赤くなった所で即座に火から取り出し、金槌で叩き、絞っていきます。これを火作りと言います。鍛冶屋が鉄を叩く時、加熱し真っ赤になった鉄を叩いているのを ご想像頂ければわかりやすい と思います。こうして熱を使い大まかな形まで作り上げた後、今度は形を整えるために冷間加工にて素材を叩き、仕上げをしていきます。形が決まったら素材を 酸に漬け、表面の黒錆を落とし酸性の着色液で鉄の表面に錆を発生させます。程よい状態まで錆が発生しところで着色を終了し、アルカリ性の液で素材を煮て、 素材の表面 に残っている着色液の酸を中和します。この後、お歯黒を用い錆の調子を整え、最後は蜜蝋を塗って仕上げてあります。


山本冨士雄

楓挽曲造箱 木竹工(No.00620)

 この作品は、挽曲と言う技法で側面を作っています。裏側に溝を切ってスチームアイロンを当てながら、ゆっくりと曲げて行きます。その部材を3枚重ねて、1枚の側板を造ります。
 元々、楽器職人でギターを作っており、熱で曲げたり、積層したりする事には慣れていました。鋸目を入れる挽曲技法は、20年ほど前に本展で金沢の灰外先生の作品を観てから挑戦しました。
 側面の木地色に削られた部位は紐状のカッターで、やり繰りしながら掘下げていきました。
 変わった形ですが、故郷のデパートの側面の形からヒントをいただきました。


矢部智堂

木彫木目込「天の笛」 人形(No.00669)

 時は奈良時代でまだ中国からの文化の影響があって中国衣装のような物を着ていたようです。
 天に向かって無心に笛を吹く童子の姿を作品にしました。
 この作品のポイントは口、手、笛の位置でこどもらしさをそして愛くるしさを見せたかったのです。


赤坂弘子

有線七宝鉢「椿」 諸工芸(No.00673)

 初出品での入選に、非常に驚き、感謝で一杯です。
 生地はゆったりとして、広がりの出るすり鉢形にしました。
 基本要素は草花などの自然の具象形が多く、今回も庭に咲いている、椿をモチーフにしました。椿の飾り気のない独特な素朴さ、奥ゆかしさ、落ち着いた花色などを白の空間を生かしながら、自分の色で表現しました。
 また、作品全体が引しまるように底辺部分に黒で配色しました。作品を制作するにあたって、なかなか思うような色を作り出すことに、毎回苦労しています。それだけに色彩については重要視しています。
 今後もモチーフとなる要素がさらに輝けるように自分の色へ挑戦していきたいと考えています。


伊藤明子

七宝花入「樹影」 諸工芸(No.00677)

 光と陰は面白い。ゆらゆらゆれ形が定まらなかったり、くっきり形が出たり。時には丸い光の輪が出来る。色を変えることもある。時、季節で輝きも違う。そんな光と陰を切り取ってみました。
 この七宝は泥の素(唐土、白土、硅石)に鉱石の微粉を顔料として混ぜ釉薬を作りますが、上絵具なども使います。焼成の温度により発色が一定でないものもあります。この七宝の特徴ですが、釉薬に不純物が多い為焼くと小さな穴が肌に出来ます。その穴を、意図的に制御するのは難しいです。その肌合いは、マットで味わい深いです。
 釉薬は、何回かに分けて薄く置いては焼きます。二十回ぐらい焼くこともあります。どの色をどの色の下に置くかで、研ぎ出した時に違ってきます。色の重なりで表情が出ます。
 今回は、光と陰、色のゆれを、研ぎ出して表現してみました。


今田澄

有線七宝合子「彩り」 諸工芸(No.00678)

 四季折々の自然の美しさ、木々や花々の美しさを七宝という手段を使って器物に表現したいと作品作りと向き合っています。今回の作品は、晩秋の白神山地の緑の中に輝いていた野ブドウの紅葉の美しさに心を動かされ図案を考えました。
 技法は一般的な銀線を用いた有線七宝で、銅胎に銀リボン線で模様を植線し施釉、焼成、研磨し、最後はつや消し仕上げとしました。
 作品作りにおいて色選びに心を砕きます。常緑樹林の深い山を現すために地色に黒に近い濃い緑色を用い、陰影は緑の濃淡のぼかしを用いました。野ブドウの葉の重なる美しさを表現したいと考え、大きさの違う同じ形の葉を、赤系、白グレー系、銀線の輪郭のみの3種類で変化をつけましたが、特に赤い葉の色には苦心しました。下地白の上に3種類の色目の違う黄色系の釉薬をさし、その上に3種類の赤系の釉薬の濃淡を重ねることにより鮮やかな彩りとその複雑さを出したいと試みました。


原民子

泥七宝花器「春陽」 諸工芸(No.00715)

 この度は初入選のお知らせをいただき驚きと喜びがこみ上げてきました。四国の砥部を訪れた時、白い土に出会いました。泥七宝を作り始めて十余年、べんがらの上に砥部で採集した白い泥を重ねて焼くと、やわらかい春の光を感じさせる様な色が出ました。
 よろこんだ芽が飛び立つような気持ちを表現したく、上部に真鍮線を入れました。これからも、泥七宝との出会いを大切にし、ご指導して下さっている諸先生方に感謝し、しぶさと温かさのある作品を作りつづけて行きたいと思います。