日本工芸会東日本支部

第58回日本伝統工芸展 初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第58回日本伝統工芸展」が2011年9月21日(水)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


井口大輔

彩銹陶鉢 陶芸(No.4)

 形と肌合いに特にこだわり、採取した田んぼの土を調整し「手びねり」で成形しています。
 それを素焼きした後、表面にもみ灰を細かくすり、水で溶いたものを刷毛でぬり、還元焼成(窯が酸欠の状態での焼き方)で約1270度まで焼きます。さらにその状態を900度まで保ち、あとは自然に冷めるのを待ちます。
 窯から出た後白くこびりついたもみ灰をワイヤーブラシで磨くと、土の鉄分ともみ灰が反応し銹(さび)のような表情をみせてくれます。それが「銹陶」(しゅうとう)という名前の元になっています。
 その肌に合うおちつきのある朱と黒を加飾し780度で焼きあげます。
 自由な造形とその独特の肌に静かにほどこされた文様をたのしんでいただければと思います。


大貫博之

線象嵌彩陶八角皿 陶芸(No.41)

 今回の作品は、白色系の陶土を板作りで成形し高台や口元のつくりを整えます。次に、鉄分の多い泥しょうを全体に施し、笹の文様を釘彫りします。その後、白化粧土を刷塗りし、線彫部に象嵌します。素焼後、1250度で還元焼成。彩色には上絵の具を使用し格子状に塗分け、最後に葉脈を金彩で仕上げて完成です。


白岩大佑

函館の急須 陶芸(No.104)

 今回、入選した「函館の急須」は、函館の赤土を用いて作りました。厚さは約2mmと薄く作り上げるため、指先の感覚をとても大切にして制作にあたります。急須の手と口のバランスを考え、私なりに品のある急須作りを心がけております。今回の作品は内側から張り出す力強さに加え、どこか果物や巾着袋 のようなおっとりとした形にしました。あまり凝った装飾は施していませんので、その分、魅力ある形、また土味を大切にした急須を作りたいと思っています。 茶こし部分も手作業で丁寧に開けています。
 急須作りに適さない土もありますので、すべて地元の土を使っているわけではありません。しかし、ここ函館で地元の土を使って急須作りをすることによって、北海道にお茶を楽しむ文化を広めることの一役を担えたら、と思っております。
 本展で入選することを一つの目標として取り組んできましたので、今回の入選結果は今後の制作において大きな励みとなりました。


池田明美

紙布紅梅織九寸帯「春 来たりて」 染織(No.218)

 この紙布は、宮城県白石の『白石紙布』の手法を使っています。
 東北地では、白い雪がまだ残る中、一斉に花が咲き誇り、待ちかねた春が到来します。明るく優しさに溢れた春を白石和紙と色とりどりの糸にのせて表現してみました。
 白石には反故紙等を使った素朴で自由な家人用紙布と、徳川や宮家用のご献上紙布があります。白石紙布は、織りのデパートと言われる程種類が多く、平織・紅梅織・紋織・縮緬織等多種織られています。
 「春来たりて」は、かつての様に経糸は、座繰りで手引きした糸を、緯糸は、和紙糸と座繰り糸で勾配をつけて織ってあります。染色は、あきる野の野山で採取した草根樹皮を主に使用しています。和紙糸は和紙を2ミリに裁断し、石の上で揉み、積んで糸車で甘く撚りをかけ、撚り止めをしたものを使用しています。座繰りの糸は、蚕の吐き出した糸の形状を残すよう仕上げてあります。


末廣キヨ子

形染着物「都心に春が来て」 染織(No.255)

 子供時代からなじんでいた銀座、日比谷、神田、上野、浅草などが、次々にビルディングに建て替わっていきました。着物の文様にビルディングを取り入れてみたく心が動きました。都心の風景は大きく変わりましたが、春は桜と意外に多い樹木に人々の会話がはずみます。建ち並ぶビル群に桜と樹木を満たし伝統文様の露芝を添えました。露芝で囲む中に、マラソンランナー、サッカーを楽しむ二人、親子、恋人、手をつなぐ子ども達などを約1センチサイズで加えました。ここはすべて墨を入れています。左右に置いたお堀の柳で風を表わし、つばめは風にのって気持ち良さそうです。神田明神、東京タワー、太陽光パネルのついた日本家屋なども入っています。
 技法は型染。色はすべて顔料です。顔料は宝石のように美しい色を出してくれます。紬の白地が春の清々しさを感じさせてくれました。
 都心に春が来て人々の会話はよりはずんでいくことを想像して制作しました。


上野彬郎

四分一鉢 金工(No. 393)

 この作品は、直径20センチ、厚さ5ミリの四分一という非常に堅い金属で制作しました。銅3に対し、銀が1の割合の合金で、非常に硬い金属です。
 底は薄く、縁を厚く見せる為、金床(かなとこ)の上で板の中程を金鎚(かなづち)で数えきれない程たたきあげ、ボール状のまるい器にします。次に器の内側に当て金(あてがね)をあて、外側から金鎚で八角に成形します。成形後、作品の内側と外側にヤスリがけ、砥石(といし)がけ、炭砥石がけをして、ついた鎚目を消して無地にし、薬品で着色して完成です。見どころは厚い縁と八角の形状です。