日本工芸会東日本支部

第60回日本伝統工芸展 初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第60回日本伝統工芸展」が2013年9月18日(水)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


東 香織

鉢「カイ」 陶芸(No.5)

鉢の中心部分から外に広がる模様は、貝殻の「カイ」をモチーフにしたものです。
白い陶土でろくろ成形後、幾つもの楕円のあたりをつけます。そして外側から内へ立体的に削り出し、白い泥をのせます。
その後、針で螺旋状に掻き落としています。
ボディは、高台から口元までゆるやかな美しいラインになるよう心がけて作りました。
見る人の足を止め、惹きつけられる物作りを目指しています。


鶴田良孝

白泥彩大鉢 陶芸(No.129)

黒色土をベースとした土をロクロ挽き成形しました。
マスキングをし、白化粧をスプレーで吹付をする技法で装飾をしています。
この作品は、白化粧の濃淡やグラデーションを意識し、水が湧き出てくるイメージをデザインしました。


林 亜美

筒描淡彩花器 陶芸(No.158)

私は今まで「色」にこだわって制作してきました。この度の作品も、色彩が織り成す、微妙な色合いを模様にして表現致しました。
全体には布目を施し、素地が半乾きの時に、泥漿を先の細いスポイト(イッチン)を使って絞り出し、線を描きます。
その後、白化粧土に顔料を調合し、色化粧土を作り、彩色します。
線の間隔やリズム、色の駆け引きを意識し同系色の中に様々な色を重ねていきます。
又、部分的に質感を変える為、釉彩や上絵の具も使用しております。あらかじめそれらを計算しながら色を入れていく作業は、楽しみのひとつでもあります。
イッチンによって生まれる手触りや、ぎこちない線、褪せた色彩が作り出す作品の雰囲気を、楽しみ、愛でて頂けたら幸いです。


深谷 泰

卵殻釉辰砂木槿文大皿 陶芸(No.162)

素地は、瀬戸赤津の貫入土と言う、磁器に近い粘土を使用し、やわらかな曲面を描き、内から外へと広がり、開放的な造形になる様心がけました。
花の描写には、ケーキのデコレーションで生クリームなどを、絞り出す様に、細い口から、白化粧土を、絞り出す“いっちん”の技法を使い花弁と花芯を描きました。茎と葉は、極細の線刻を施し、鉄絵具にて彩色。花芯には、焼成後、金色に見える釉薬を塗り、水分を撥く薬剤を施した後、施釉し、釉薬上から、銅により、赤く発色する釉薬を、花弁の中心部に塗り、還元炎にて焼成しました。
白く、艶消しの卵の殻を思わせる様な表情の器面に、今を盛りと咲き誇る、ムクゲの花を全面に描く事で、器自体からの匂いたつような生命力や、命の泉の豊かさ、と言ったものを感じていただけたらと思います。


金 千鶴

沈金象嵌箱「じゅんさいの里」 漆芸(No.342)

秋田県三種町は全国でもじゅんさいで有名です。皆さんはじゅんさいの花をご覧になった事はあるでしょうか?じゅんさいの花は朝にしか咲かないため早朝から友人と出掛け初めて見に行きました。朝日を浴びたじゅんさい沼はとても穏やかで静かな空気の流れる場所でした。花が水面からピンピンと出ていて、睡蓮の様な花をイメージしていましたが実際には全然違うもので驚きました。秋田県内に住んで居ても知らない事は多いものです。
素地は檜材の指物。総布着せ、本堅地下地。加飾は葉を色漆象嵌、花を沈金、茎を素彫りにすることで水に浮かんでいる様な距離感を表現出来ないだろうかと試みました。
今、自分の居る場所、環境でどんな事が出来るのか表現を続けたいと思います。


石田 温

泉文筋目釜 金工(No.389)

シンプルな筒釜にシンプルな線を入れてみました。
線は、鋳型がやわらかいうちに押していくのですが、線の一本一本が長いため、できるだけまっすぐに等間隔に押していくのが大変でした。
着色は、漆とお歯黒を焼き付けていきますが、線のものはムラになりやすいため、できるだけ同じ様になるように工夫しました。


鈴木成朗

四方釜「路」 金工(No.415)

オーソドックスな角形四方釜です、風呂にも炉にも兼用できるサイズとしました。
3面に配した階段のディテールで上面から側面へ空間の繋がりを意識しました。環付も同様に階段状の意匠としています。鋳肌は砂肌ですが、下地にペインティングナイフなどを用いたマチエールを作り独特の質感を得られるよう意識しました。
唐金のツマミが弱かったと感じています、もう少し工夫したい箇所です。
茶釜の制作は初めてでしたが、鉄瓶よりパーツが少ない分難しさもありましたし、もっと茶道への造詣も深めたいと感じました。今後もコンセプトのある作品を制作していきたいと思っています。


小坂鐡男

襷掛裏松葉編花籃 木竹工(N0.466)

日本伝統工芸展では昨年に引き続き二回目の出品となりますが、今回初入選することができ、有り難く思っております。
前回の研究会で色々と数多くの指摘を受けたので、今回はなるべくその点に留意して制作しましたが、中々思い通りにはできませんでした。今回は裏松葉編みを選んで見ました。試作品を作っている時に、襷掛けを思い付き、旨く出来そうなので、これに決めました。この編み方は、襷の細い竹すべてが一度に前面に出て来るので、その後方で裏松葉を編みながら、襷の細い竹を組み込みます。この時、細い竹が指に絡んだりして、折れることもしばしばで、細心の注意が必要です。また、裏松葉編みは二歩進んで一歩下がるような編み方なので、襷掛けと相俟って大変時間の掛る作業で、途中投げ出したくなる事も有りましたが、根気よく続け搬入期限に間に合う事が出来ました。今後共皆様のご指導よろしくお願いいたします。


本田青海

盛籃「飛翔」 木竹工(No.509) 日本工芸会新人賞受賞

朱鷺が翼を広げて大空を羽ばたくイメージを作品で表現してみました。
中心から小・中・大の3種類の竹を使い順番に編んでいき外側に向かうに従い大きく広がっていくような編み方をしています。
さらに細かい竹で中心から放射線状に並べたものと組み合わせています。
この作品を通して、真っ直ぐでしなやかな竹という素材の魅力を多くの人に知っていただけたらと思います。


森永恵子

有線七宝蝶更紗文合子 諸工芸(No.609)

前々から、更紗紋様に魅かれ、洋服などに用いていました。
もともと更紗紋様布地は、室町末期から桃山、江戸初期にかけての、オランダ人、ポルトガル人、唐人による南蛮貿易の商船によってもたらされたことが始まりです。
いにしえの渡来人に思いを馳せ、たくさんの更紗紋様との中から、私の好きな蝶のモチーフをアレンジして、図案を考えました。何処に蝶を配するか、蝶の大きさやなかの模様、色調等の調和に取り組みました。また銀線での細かな更紗紋様の雰囲気を表現するのに苦労しました。
作業は有線七宝の作業手順と同じですが、メタル釉薬の為、焼成温度に細心の注意を払いました。一つ一つの銀線の模様の細かさに釉薬を施すのに多くの時間を費やしました。
昔からの紋様ではありますが、現代を感じていただければ幸いです。