日本工芸会東日本支部

第61回日本伝統工芸展 初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第61回日本伝統工芸展」が2014年9月17日(水)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


岸田 怜

盛夏競演組鉢「古都」(No.61)

真夏に朝顔が競いあって咲き誇る様子を組鉢で表現しました。
磁土をロクロ成形し、高台を小さく削り口元に向かって広がりを出し朝顔型にしました。口元を5角形にけずり出し、そこに稜線を入れシャープさを出しました。
絵柄は、ツルや葉を彫りだし、花弁の薄さを染付で表現しました。
そこに、青白磁釉を、染付の青や彫り出した部分が強く出過ぎない様に薄く釉薬を掛けます。
朝顔の生命力や清涼感を感じて頂ければ嬉しく思います。


楠 光代

花織帯「古都」(No.227)

この帯の技法は花織りです。沖縄の花織の美しさに感銘を受け、我流ながらも試行錯誤を重ねてずっと花織りを続けてきました。この「古都」という帯では、京都を訪れた折に感じたアンティークな部分と歴史を大切にしながらも新しさを取り入れようとしている印象を表現しようと思いました。全体的にどこか懐かしさを感じるような色合いにし、中央の細い縞の部分は5色の経糸をそれぞれ5段階のグランデーションをつけて染め、その上に現代的な感じの花織りを織り込んでみました。伝統的な沖縄の花織りとは少し異なるかもしれませんが、形にあまりこだわらずに自分流にアレンジして花織りを楽しんでいます。


廣瀬雄一

江戸小紋着物「ななめ竹に鮫」(No.261)

昨年、パリに行った時に羽田登喜男先生の作品を拝見する機会がありました。京友禅と加賀友禅が融合された作品の世界観に大きな感銘を受けました。居てもたってもいられなくなり、すぐにでも型染めで一枚の型紙から斜めに柄が通った着物が作りたいと思い、帰国後に制作を開始したのが本作品です。
二枚の伝統的な伊勢型紙(鮫小紋と竹柄)を重ね合わせて幅38cmの型紙を斜め全体に柄が通る様に寸法を決め、型紙をずらしながら糊置きして染めたのですが、なかなか思うように仕上がらず、特に上前と脇の柄合せは何度もやり直しました。
色は黒ではなく墨黒を合わせました。墨黒は黒よりも赤味があり、色に深みが感じられると思います。
江戸小紋の最大の魅力である「粋」に迫るために、凛とした竹柄と繊細な鮫小紋をご覧ください。


水橋さおり

友禅訪問着「群」(No.274) 【日本工芸会奨励賞】

羊の群れをモチーフにしています。
羊は、家族の安泰と平和の象徴です。
このモチーフは私自身大変愛着があり、十年ほど前から試行錯誤しながら追いかけています。
友禅染の技法で、模様の輪郭線を隣同士の色が混ざらないようにする防染糊を引く事を糸目糊置きと言います。
この技法を使って模様の輪郭線としてだけでなく、羊の毛並みを一本ずつ糸目糊置きで表現しました。
全体の色味を抑え、すっきりとした印象に仕上げました。
手描ならではの一匹ずつ変化を付けて描いている羊の表情にも注目して下さい。


吉岡政江

紬織着尺「涼風」(No288)

涼やかな風を、糸を使い、織りの技法、色とデザインで表現した作品です。
未精練のまま絹糸を使い、夏使用のシャリ感のある布に仕上げています。
織りの技法は、平織りと畝(うね)織りの市松模様が更に市松に配置されたものです。私はこの模様が好きで多く用いますが、布自体に奥行きが出て、光の加減で見え方に変化が出ます。今回は未精練の糸を用いることで絹独特の光沢をあえて抑え、デザインと上手く融合し、涼やかさを表現できたのではないかと思います。
色とデザインで、風の動き、或いは風に揺れる植物の動きを表現しています。
一枚の布に奥行きや動き、微細な変化を求め、試行錯誤しておりますが、その様な意図が伝わるようにと願っております。


伊藤ミナ子

蒔絵箱「万葉の柘」(No.296)

柘とはヤマボウ シのことで、万葉集の歌の中で使われていた呼び方です。
そのヤマボウシを研出蒔絵と平蒔絵技法で制作しました。
ヤマボウシの縦の葉と横の葉を2種類の金粉(金粉と青金粉)で分けて表現し、中心に銀平目粉を粒置きしました。貝は白蝶貝の裏に銀粉を焼き付けしたものです。
特に色を用いず、金属粉そのままの色の違いで全体をまとめました。
蓋を開けると中には高さの異なる桐の箱が3段入っています。
蓋裏には金色の満月を表し、箱全体で万葉の世界を表現しました。


高田亜矢子

ドーム箱「夢幻」(No.400)

金属の限られた色彩の中で、私が最も好きな色は「緋銅」という技法で発色する鮮やかな赤色です。
この作品では、ツマミ部分と上部の花のような模様の中に4箇所使用しています。
情熱的な鮮やかな緋銅の赤と落ち着いた純銅特有の朱色が映えるように、本体は烏の濡れ羽色の赤銅を素材にし、鳥かごのような丸いフォルムの箱を作りました。
また全体的なバランスは、ランダムに流れる植物のような模様と星屑のような煌めきを銀で象嵌をしています。
作品下部には、金・銀・銅で一線一線表情と太さの異なる線象嵌を施しております。
儚く美しいものを表現したいと思い、私なりの『夢幻』の世界を制作してみました。


吉田伸

鍛四分一鉢(No.426)

鍛四分一鉢、此の作品は、並四分一外三分銀二十三、銅七十七、金一の割合の地金で作製した物です。鍛金で絞って形を作り銀鑞流し込み打出して作っています。
モチーフは太陽に向かって咲く向日葵です。東日本大震災で故郷の福島南相馬市小高区はダメージを受けました。この花の様に、明るく元気に進んでの思いで作りました。
御観覧いただければ有り難く存じます。


小林次郎

松葉編花籃「木漏れ日」(No.451)

過去の作品は、丸い形状のものがほとんどでした。今回は初の試みで楕円筒状の花籃に挑んでみました。木の葉の間から陽光が差している様子を連想しました。
側面と底面の部分を制作し、二つを組み合わせました。
側面は松葉文様としました。更に二色の細い(巾0.8ミリ)竹を松葉文様の黒い面に、斜めに編み込んで陽光(木漏れ日)に見立てました。
内側の底を三種類の巾の材料で波状の網代編とし、最も細い竹を染色せずに、それを地表に達した陽光として表現しました。
見て頂く方々に、少しでも作者の意図を感じて頂ければ幸いです。


井谷多賀子

有線七宝合子「房富」(No.557)

輝く銀
月よりもくらきともしび花馬酔木(山口青邨)。桜の宴も終わる頃、散歩の道すがら馬酔木の枝を二、三頂いてスケッチしてみることに。半分透けた白い花がたわわに咲き房状に垂れ下がっています。一つの花をじっくり観察し描いてゆくと「月よりも くらきともしび」がどれ程言い得て妙か気付きます。次第に作品のイメージが固まってきます。背景は月夜の晩の如く、花はぼんぼりの灯の如く。私は常々七宝の魅力は銀線の輝きにあると思っております。なので、銀線を使って輪郭を描く植線という工程は特に力を注ぎます。仕上げの砥ぎ出しの段階で徐々に現れる銀線に毎回感動を覚えます。恐らくこの感覚は七宝作家全員に共通するものではないでしょうか。最後に作品名の「房富」について雑感を一言。今回の本展初入選はあるいは作品名に霊力が宿っていたから!と密かに確信しています。父俗名房義。母俗名富枝。一文字ずつ頂戴し「房富(ほうふ)」。しかも富んで房のように咲く馬酔木とも合致します。


大津英子

泥七宝菓子器「風花」(No.561)

数年前、泥七宝の須田先生に出会い、その作品に魅せられ、のめり込む事になりました。
今回の作品は、自然の広がりと営みの中の「静と動」を表現したつもりです。
私の中では、10年前に亡くなった、ひまわりの花が好きだった父親を偲んで、花はひまわり、風は父の思いをイメージしました。
銅製の胎に真鍮線を立て、顔料を置いて焼く事13回。苦労を重ね1年以上かけて完成いたしました。
今回の入選は思いがけないものでしたが、すばらしい作品の中に入れて頂き、光栄に感じております。ありがとうございました。
これからは今まで以上に心を込めて作品作りに励みたいと思います。ご指導くださった須田先生はじめ先輩の皆様に感謝いたします。今後ともご指導よろしくお願いいたします。


後庵野かおり

有線七宝蓋物「うすみどり」(No.569)

澄んだ水辺に生える川ナズナ(クレソン)の花のかわいらしい様子を、うすみどり色の濃淡を用いて表現しました。色のトーンをおさえ、淡い感じに仕上げたことと研ぎを少し控え艶消しに仕上げたことで、やさしい透明感が表現出来たかと思います。
有線七宝は難しい技法ですが、自分の思い描いた形を銀線で自由に形づくれるところが好きです。これからも、四季折々の花や草木など、自然の美しさや優しさを、自分なりの感性で表現していきたいと思っています。


小林昂平

硝子切子花瓶「羽衣」(No.572)

羽衣をまとった天女が、夜空に舞い上がる様子をイメージして制作しました。
形に関してですが、天女ということで女性を連想させるくびれ、そして空に高く舞い上がる様子を花瓶の膨らみを上部に配置することで、鑑賞される方の目線も高くしようと意識しました。
カットに関してですが、上部の菊籠目という紋様のひとつひとつを八角形に揃える点、そして中心部に施された斜めのラインをカットする際の手首の使い方に特に留意して制作しました。
大きく重たい器になるほど、精密にガラスを削る集中力を持続させなければならないので、作品を制作するにあたり、とても勉強になりました。


玉川哲也

硝子鉢「宴」(No.582)

宙吹きのガラスで、ガラスの中にサンドブラストした模様と気泡をとじこめ、外側のフチのデザインはサンドブラストで加工。
制作に関して特に注意した点は、ガラスの持つ透明感を損なわないように気をつけました。