日本工芸会東日本支部

第62回日本伝統工芸展初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第62回日本伝統工芸展」が2015年9月16日(水)より、日本橋三越本店で開催されました。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


浅井敬子

透光磁練上組鉢「伊勢」(No.2)

素材は磁土を使用し、透光性のある練りこみ技法で作成しました。
作品の中心部分が美しく見える様に文様を組む時に工夫をしました。
磁土を使用する事で、顔料が美しくクリアに発色し僅かな顔料の差で微妙な色合いを表現でき、透光性も得られます。
青紫系2色・緑青1色をグラデーションを利用して色の深みを出すと同時に、グラデーションの3色と僅か黄色を重ねる事で、平安時代の貴族の衣装・調度品・手紙などに用いられた 季節感あふれ雅な ”かさね色” をも同時に表現してみました。
カキツバタをイメージしての作品です。


佐藤美佳

透光磁練上「Malama」(No.93)

「Malama」とは、ハワイ語で「月光」を意味します。
「濃紺」で、煌々と輝く月がうっすらと闇夜を照らすさまを、「白」で光の反射するさまを、それぞれ練込技法で表現しています。
素地には、印象的なハワイの植物をモチーフにし、それらが月光に浮かび上がるイメージを透光性の異なる磁土で模様組みしています。
形は花が南国の穏やかな風にそよぐ様子を表し、あえて手の感覚だけを頼りに削った石膏型を使用して、よりやわらかさを強調しています。
素地の持つ独特な透明感が醸し出す、
月明かりに映し出された幻想的な雰囲気を、ぜひご堪能いただけましたらさいわいです。
これからも人の心にいつまでも穏やかに寄り添うような作品創りに精進してまいります。


牧 フキ子

吹泥幾何文鉢(No.166)

大鉢に、線の掻き落としをしていた時、口の縁を変化させたらと思い、製作を始めました。
縁の八ケ所にあたりをつけ、削りを入れてみました。黒線の部分は、半紙を線状に切り出し、水で貼り付け、鉢全体に鉄化粧泥を吹き付け、紙抜きにしました。他の線は、竹櫛で掻き落としました。
素焼き後、紙抜きをした部分に色を付け、鉢全体に薄く釉薬を吹き付けて、肌合いにこだわり完成させました。
線と縁の共演を楽しんで戴ければと思います。


妹尾直子

諸紙布帯「風車」(No.248)

今回の作品は、宮城県白石の紙布を復元された桜井貞子氏(茨城県水戸市)に師事して作りました。
西ノ内和紙(茨城県)の紙布用紙(菊池大輔氏抄紙)を3ミリに裁断し、湿らせ、揉み、撚りをかけて織りました。経糸、緯糸とも紙の糸で作った諸紙布です。
楮の手漉き和紙が持つ生成り色を生かしつつ、茜色の部分はインド茜と西洋茜で染めました。
沖縄の絣技法では4本線で「風車」を表現しますが、今回は浮き織の技法で「風車」の模様を表現してみました。
今後も白石紙布に向き合いつつ、創造的に紙布の世界に取り組んでいきたいと思います。


藤森定子

浮織帯「橅の森の葉隠れに」(No.265)

日本にもぶなばかり生えている森があります。
近くに棚田もあり田舎生まれの私の原風景でもあります。
新緑の頃訪れました。
ぶなの葉の緑が生まれたばかりの黄緑色、子供の黄緑色、青年の緑色、重なり合った深い緑色それらが青い空と相まって息をのむほど美しい。
立ち止まってたたずめば木漏れ日の緑のシャワーに満たされ
木々がすっくと立ち、でも仲間のように自由に並ぶ。
まるで耽美派の詩の一片の中に紛れ込んだよう。
ふと歌が浮かび口ずさみたくなる。
この感動を織れないかと思い立ち力の無い私、みみずのようなデッサン、恥ずかしい。
そしてそれをデザインし糸を染め織りました。
絣で木々を表現したかったのですが力不足でかないませんでした、残念。
題はその時浮かんだ歌の2小節を頂いて題にさせて頂きました。
ほんの少しでもこの人は新緑の美しさを表したかったのねと感じて頂ければ最高に嬉しいです。


松浦弘美

ほら絽織菱絽生絹着物「風を纏う」(No.269)

ほら絽織は、隣り合った2本の縦糸を、絡み、もじれさせてから横糸を1段織り込み、さらに次の段でまた同じ縦糸を、絡み、もじれさせる織り方です。
つまり1段の横糸の上下に縦糸の絡みによって小さな隙間を作るのです。この隙間の連続模様を菱形にして、着物全体に菱形が浮かぶように織り込んだものが、ほら絽織菱絽です。初めてほら絽織菱絽に出会ってから長い年月が過ぎました。布としての強さと、透ける美しさの相反する願いを手にするために、生絹の精錬や織り方など、自分なりの工夫を重ねて、のめりこみ、追い求めてきました。
とんぼや、かげろうの羽根に憧れます。夏の風を纏い、爽やかにゆれる着物になれば幸せです。


山岸大典

紬織男物着尺「朝露」(No.282)

この作品は、経糸、緯糸共自家飼育で作り上げた繭のサラブレッド春領鐘月繭の生繭にて糸を作り、植物染料、臭木の実、萼にて、水色、グレー系で先染めして、その他五種類の天然染料で染め上げ、高機と竹筬にて、優しい風合いで、平織りの組織にて、素材を生かした手触り感と鈍い光沢を出し、自然界の植物に朝露が降りた風景を表現しました。地文全体の中に、山繭天蚕の繭を真綿にして藍草で染めた糸を入れ、家蚕の糸と光の違いを見て頂ければ幸いです。


鈴木頼彦

南鐐切象嵌花器(No.409)

この作品は、直径36.5cm、厚さ1.2mmの純銀板を金槌と木槌を使い、鍛金の技法により花器に成形しました。
縦筋模様はボディーに金切り鋸で幅1mmの切り込みを入れ、細く切った純銅の線をその溝に嵌め込みました。
その後、鑞付けをしましたが、熱で膨張して真っすぐ付けるのが非常に大変でした。
表面の金の彩色は、荒らしの金槌で叩き純金の焼付象嵌を全体に細かく施してあります。
その後、純銅の赤い色を出すために硫酸銅と緑青で煮込みました。
朱の光が射す和の広がりを表現しました。
本展に初入選したことで今後の作品づくりの大きな励みになりました。


松川明日香

梅象嵌香合(No.420)

梅の花が水に落ちた瞬間を表わしている香合です。
梅の花を高肉象嵌し、波紋は彫りを入れ、2つの間により高低差を出したいと思いました。
花弁には銀、中の匂い(蕊)には金、水面には四分一の地金を使用しています。
「彫る」、「嵌める」、「叩く」など様々な彫金技法を組み合わせ、より多彩で豊かな質感の金属表現を目指しています。


薄井敬二

連続くもの巣編盛籃(No.442)

私は、常に今までに編んだ事のない編方で作品を作ることをモットーにしています。
今年は連続くもの巣編で土手に咲く向日葵を編んでみようと思いました。くもの巣編は、細いひご5本を用いて六角形のくもの巣で編みはじめました。5本1組のひごを1辺として六角形のくもの巣編形を編込んでいきます。六角形のくもの巣約60個と細いひごを交互に編込んでいく作業は、まちがいやすく気持ちを集中しなければ出来ず大変苦労しました。更にくもの巣の中央部に3本のヒゴを通しました。
次に、花びらをどう付けるか迷いました。結局、実のまわりから花びらの数を決め、5本ずつ束ねて虫かがりで結びつけ、花びらの先を縄編みで広げ、最後に籐で縁取りを編みあげました。何とか自分の納得のいく作品となりました。今後もますます精進していきたいと思います。


江花美咲

透網代花籠「遠雷」(No.443)

透網代花籠「遠雷」は、丸みをのある五角形に広がる縁を工夫しました。胴は低くして、透網代の大きく広がる縁を制作しました。五角錐の型を使用することで、中心から角に向かって開くような線と波打つ縁を表現しました。真上から真横にかけて、見る角度により変わる表情が見所です。
また、黒地に赤い五本の線で夜の雷をイメージしました。これは黒い竹ひごで編んだ底編みに半分の赤いひごを差し込み、交差させないことで表現しました。


竹腰米子

木彫木目込「微睡み」(No.544)

桐の木から、椅子、人形を彫り出し、丁寧にみがき、全体を白胡粉で仮仕上げをします。衣裳に使用するため布目に色糸を通し文様を作り、各部分に使用する布は、ゆったりとした私なりのイメージになるように染めてあります。
その後、顔、手、首は色を入れた胡粉仕上げ、衣裳は、木目込の手法で仕上げました。
人形に昼下がりのまったりとした思いを感じて頂けると思います。


平野滋子

泥七宝花入「麗」(No.595)

この作品は、花文のモチーフを用いて、泥七宝らしい温もりが感じられるような花入となるよう表現してみました。
泥七宝は、まず、図案に合わせて真鍮線を植線します。その後、泥の素(唐土・白玉・硅石)に天然の土や顔料を混ぜ合わせて作った釉薬を置いて焼成することを十数回くり返します。そして最後に、研ぎ出して仕上げます。
釉薬が微粉のため薄く置き、何度も焼き重ねていくために、研ぎ出した 時、色の重なりが微妙な表情となって現れ、おもしろさやあたたかみのある独特の雰囲気がでてきます。また、釉薬によっては、肌に細かな穴(ピンホール)が現れ、これも泥七宝らしいやわらかな肌合いとなって、味わい深いものになります。
まだまだ奥の深い泥七宝。
入選を励みとして、更に研鑽を深めていきたいと思っております。