日本工芸会東日本支部

第63回日本伝統工芸展初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第62回日本伝統工芸展」が2016年9月21日(水)より、日本橋三越本店で開催。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


市岡 泰

だ円鉢

すべすべ、ざらざら、つやつや、土や釉薬の持つテクスチャーや表情 に惹かれます。
本作品はロクロ成形後に変形して、生乾きの状態で表面を削り形を整えるとともに、土にテクスチャーを加えています。次に全体に白化粧を施し、マスキングをして文様を釉薬で描きました。
素焼き後、施釉して1240度で本焼きしています。
土や釉薬の質感を文様で繋ぐことで、うつわとして一体感のある作品を目指しました。


高橋朋子

蓋物「月の光、降ル」

蓋、本体ともに、磁土でロクロ成形しました。青地の加飾は呉須で吹墨をしています。白釉を施し、焼成後、さらに低火度の上絵を施して焼成します。その上に上澄(箔の7~10倍厚いもの)を切り出して、1枚ずつ貼って行きます。他の部分も金銀彩など上絵付けした後、低温で焼成し、部分的に磨きます。銀上澄と呉須と白地の質感のちがい、色味やトーンの対比など感じて見ていただければ幸いです。


高橋奈己

白磁水指

この度、白磁水指を出品させていただきました。技法は鋳込みです。油粘土で原型を作り、鋳込むための石膏型を作っていきます。その型に磁土の泥漿(液体の土)を流し入れていきます。
私の作品のモチーフになっているのは、自然界の種や実、花の蕾などの、美しいラインと生命力にあふれるフォルムです。シャープで凛とした美しい白さを持つ白磁という素材の力を借りて、私なりの美しい形を追い求めています。360度形を変えていますので、見る場所によって、全く違う作品に見えます。そして、私の作品は釉薬で覆っていません。白磁の素材を生かし、美しいラインと形を出すため、あえて釉薬をかけていません。白磁のみの陰影が美しいと感じているからです。


舘 真由美

彩色線文陶筥

陶土を使用し、かたまりをくりぬいて、成形しています。素地に蚊帳をまきつけ、化粧土を刷毛でぬり、布目をつけます。そして、素地やきをし、下絵付をしていきます。数種の顔料を筆でぬりわけ絵をつけます。最後に、釉薬を吹きつけ、本焼をし、完成です。
形と紋様の調和を考え制作しています。


吉田絵美

組皿「鳥類図鑑―彩―」

素地は白磁で、それに絵付けを施した作品です。
とても分かりやすくシンプルな技法ですので、「白い磁器に色のある絵」の作品は見慣れた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
鳥の絵については本焼成前の絵付け、下絵で描いており、止まり木である帯地部分はそれに少し上絵を重ねてあります。
作品名である「彩」(いろどり)という名は、色合わせの美々しい鳥たちをメインに描いたことから付けさせていただきました。
その配色や形の多様性には、「生きるため」以上の創意が含まれているのではと、描きながらもその妙に興趣が尽きません。
まさに天の配剤のようなその姿を、器の中に出来うる限り映しとらせていただいたつもりでおります。
ぜひ「図鑑」のようにご鑑賞下さい。


麻薙詩乃

江戸小紋着尺「道具彫 青海波」

この作品は、「型染め」という技法を用いています。
この文様を彫った型紙は、現在は主に三重県鈴鹿市で作られており「伊勢型紙」と呼ばれています。
「青海波(せいがいは)」 という柄は、同心円を互い違いに、鱗(うろこ)状に並べた文様で、悠久に押し寄せる波の様子を表現しています。
私は制作するにあたって、今作品の目標に「自我を出しすぎず、着る人になじむ色づくりをするということ」と「今まで見てきた師の色を自分はどこまで学べたのかを確かめること」を目標としました。
この作品のイメージは「夏の終わりから秋にかけて、陽が沈み夜に向かう海」を表現したいと思い制作しました。


清水勇次

小千谷縮「水すだれ」

経糸は地色の生成りの中に、藍色三色の糸と生成りの糸をつないで入れ込んであります。自然な水の流れを表現するために、不規則に組み込みました。三色の藍の糸は表現を強くするために、同色の糸を2本ずつ揃えてあります。不規則につなぎ合わせた糸を、経糸に二本揃えて組み込むには、それなりの工夫が必要でした。
緯糸は、二色の藍色系の糸を使用しました。経糸同様不規則につないで入れ込んであります。更に地糸には涼しさを表現するためと、生成りの色を生かすために、二本置きに生成りと漂白した糸を入れています。
小千谷縮の特徴である「しぼ」と経糸の相乗効果で、静かに落ちる水すだれ(滝)を表現しました。


鈴木ゆき子

絣着物「余韻」

高原の向こうに見た木々の印象を着物に託しました。
技法としては、草木染め経ずらし絣着物です。
この着物の経ずらし絣の制作方法は、経糸に緑系と茶系の二種類の絣を横に並ぶように染め、その後数本ずつ文様に合わせ着物の幅になるよう組み込みます。次に、ハシゴと言う道具を使い経糸をずらします。
絵羽の模様付けなので、緑の山型は前も後ろも肩に向かっています。布としては、肩で向きが反転する事になります。それは緑の絣を茶に茶の絣を緑に染め分ける事で反転します。
絣の染めは、植物染料で、緑系は三色、茶系は二色に染め分け繊細さと動きを出すようにしました。
文様は、裾に行くほど間隔を狭くし、緯糸も上・中・下部をベージュから緑色に三色変化させる事で動きや明るさを付け、題材である自然に近くなるようにしました。


登丸 久

六ツ目重挿箱「天景」

編目で魅せる。これをテーマとしまして、そのために新しい編み方を考案し、改良を重ねてまいりました。伝統的な六ツ目編みの技法は、正六角形をベースにした編目となり、対称性の大きな美しい印象を与えます。しかし、一般に対称性の大きな編目は、単調になりやすく、編目自体の面白さが不足するように思います。そこで、六ツ目編みの様式美に面白みを加えるために、重ね編みによって、不自然にならない範囲で非対称としさらに、立体感を出してみました。この奥行きのある編目で曲面を構成することによって、見る角度や距離により、見え方の変化を楽しめる、飽きのこない作品になればと思います。 
宮沢賢治の「銀河鉄道」から見た情景を彷彿させればと思い、作品名には「天景」の字を用いてみました。


本間 昇

神代桂菱紋重糸目筋箱(日本工芸会新人賞)

長年多種の作品を作ってきましたが、歳を経て寄木を如何にして進化させる事が出来ないか、と考えるようになりました。この作品を作るヒントは、食糧難だった小学生のころに母親が作ってくれた日の丸弁当です。それは米飯の中に梅干を入れ、その上に海苔をのせたものでした。神代桂という黒色の板に天然有色材を使い、あえて寄木模様を前面に出さず、透かして見せることに挑戦しました。箱根の伝統の「挽き割り」という技術を使う事で重圧感を出しました。
蓋・・・3mmの神代桂の板に、天然有色材を菱形に寄せた2mmの板を貼り、その上に0.4mmの神代桂を貼ります。それをV形の刃物で4mm間隔の溝を彫って、中の菱形を浮き出しました。これが作品名の菱紋となりました。
身・・・朴の気で「二引き」の寄木模様を作り、それを2mmの板にして楓と寄せ、3.5mmの神代桂の板に貼りました。楓の美しさと寄木模様のマッチしたところも見てください。


大槻洋介

硝子花器「流翔」

流れ落ちる清らかな水のイメージを思い描き、制作致しました。
大まかな形と量感を探りながら、融けたガラスの塊に息を吹きこみます。
熱く柔らかなガラスとの作業は心が躍動する瞬間です。
そして冷ました後、柔らかな三次曲面の形状を模索しながら、時間をかけて削り磨き上げていきます。
硬く冷たいガラスとの対話による作業は気持ちを鎮めておこないます。
その対比と共存によってこれからも作品を作り続けていきたいと思います。


高橋とも子

泥七宝水指「覚醒め」

泥七宝は、真鍮線で植線し3種の粉を合わせ顔料を加えたものを釉薬として使います。施釉と焼成を繰り返し、最後に研磨して完成となります。
この作品は幾何学模様の柄が細かく、施釉に苦労しましたが、上方の柄の部分と下方の無地の部分のバランスがうまくできたと思っています。
暗闇の中から光や音を感じられるようなイメージで、題名を 覚醒め としました。
この入選を励みに、これからも良い作品を作れるよう努力していきたいと思います。