日本工芸会東日本支部

第64回日本伝統工芸展初入選者による作品解説

現代日本の優れた工芸技術と美の粋を集めた公募展「第62回日本伝統工芸展」が2017年9月20日(水)より、日本橋三越本店で開催。
以下は、本展に初めて入選した、東日本地域在住の作家自身による作品解説です。


宇佐美成治

彩泥線紋大鉢  日本工芸会受賞

深い闇に包まれた優しい光の調和と幻想的な空間をイメージした。
内側は淡い色調の化粧土を複数重ね、ブラッシングで放射する柔らかい光を表現した。一方、外側は黒を基調に、闇の世界を描きコントラストのある構成で、力強さを強調。薄く軽く大きなサイズにチャレンジするなどテクニックを追求し、自分の作風を広げることが出来ました。
今後も技術を磨き革新的な提案をしていきたいと思います。


岸上まみ子

サボテン文組皿

磁土を使用してロクロ形成で器を成形し弁柄・呉須で下絵付けをしています。線を描くのが楽しいです。これからも努力していこうと思っております。


寺澤里美

練上花紋組鉢

この練上花紋組鉢は練上(練込)という技法で作成しました。白土に顔料を混ぜ、色・濃度の違う粘土を数十種類作ります。
この鉢の模様は、花の大・小、葉の大・小、余白のパーツから構成しているので、それぞれ個別に作ることになります。
一つのパーツを作るのに、色粘土を何層にも重ね合わせ、それぞれの模様に組んでいきます。その後、切断して、配置を考えながら組み合わせ、一体化して鉢の形にしていき高台を付けました。
模様は、5枚の鉢がそれぞれ異なるデザインにしました。大輪の花の濃度とコントラストを上げて強調し、小の花は大より濃度を下げて若干ではありますが、薄く控え目にしてあります。葉も同様です。余白の背景は、かすみ草のような極小の花をイメージして淡い色で表現し、奥行きをもたせました。
5枚の鉢を並べると、モノトーンでありながら華やかな中にも、それぞれ違う雰囲気をかもしだしているのが見所だと思います。


鳥山由貴子

灰釉幾何文組平皿

信楽の鉄分の多い赤土を使っています。底部はタタラで作り、ヒモを接いで縁を形作りました。
生乾きの時に高台を削ってから、縁の部分に白化粧土を塗っています。
素焼きの後、文様にするためのマスキングテープを貼ります。中央部分にはマットの黒釉を刷毛で塗り、全体に灰釉をずぶ掛けました。
次にマスキングテープを剥がして、最後に光沢のある黒釉を文様部分に吹き付けてから、還元焼成をしています。
陶土を使っているので、デザインは出来るだけシンプルにして、幾何学文様を反復して配置しました。
中央の深い緑・縁部分の淡い緑・化粧土の白・地の鉄色が、バランスよく出たのではないかと思っております。


新村陽子

百合文花器

黒陶土を使い、ロクロとひも作り技法で成形しています。
素焼き段階では、土の黒色を出来るだけ残すようデザインし、和紙やマスキングテープを貼り付け布を載せ、白化粧をしています。
布目を重ねたり自由に化粧したり出来るのが良いところです。
絵付は、呉須と化粧泥を使い、真っ白い百合の花を花器いっぱいに思いっきり描きました。花に陰影が現れるまで何度か吹き重ねています。
出来あがった花器に花弁の陰影がほのかに現れた時、ほっとした喜びを感じました。


根本峻吾

霜鱗器「稜」

陶土を使用し、ろくろ成形後に変形させ削り込んで造形をします。
素焼き後、オリジナルの梅花皮釉(かいらぎゆう)を独自の手法で施し焼成して完成です。
シンプルかつ大胆なデザインになるよう削り込みで作る形のラインを最小限にし、色はモノトーンにしました。また、360度、どの方向から見ても違う表情で美しく見える事を意識し、形はアシンメトリーにしました。
毎回、美しいシルエットになるよう意識して作品制作をしています。


三上慶耀

青瓷変形組鉢

この作品は、北国の大地、鹿追の雪の形と地元、然別川に咲き並ぶ桜の美しい色に感動を覚え、それを作品で表現出来たらと思い制作致しました。
土は地元の原土を水簸し、陶石など混ぜたものを使います。はじめロクロを使い円形の薄い板を作ります。薄板状の粘土を石膏型に乗せ形を作り高台を付けます。
乾燥後に口辺に化粧泥を施し850度で素焼し厚さ2㎜以上になるように釉薬を掛け1225度で焼きます。
青白い雪の静謐から、少しずつ近づく春を感じて頂けると嬉しいです。


河村岳大

乾漆輪花盛器「SUSTAIN THE FLOWER」

初出品の作品なので、私にとっては全力を尽くしました。これからも、自分に真摯に向き合って、一歩、一歩、しっかり歩みたいと気持ちを引き締めています。


室瀬 祏

大手毬合子

大手毬の合子。その名前の通り鞠のように膨らんだ印象を形態に表現し、一朶の花を甲面から側面にかけていっぱいに描いています。
白い花は卵殻と白の乾漆粉にわずかに金粉を散らし、側面の葉はオーソドックスな研出蒔絵にすることで、甲面の花を際立たせるデザインにしています。卵殻は輪郭が淡くなりやすく細部の表現が難しい技法ですが、乾漆粉で花以外の部分を高上げしてから卵殻を貼っていくことで花一輪一輪に表情をもたせています。また研出蒔絵と卵殻の境目は卵殻を象眼することで、全く性質の異なる二つの技法が違和感なく調和するよう工夫しています。
内面は黒の呂色仕上げとし、外面に施した卵殻の大らかで華やかな印象に対して緊張感をもたせ、箱全体として心地よい緩急が出るように意識しています。
箱の使用用途としては菓子箱を想定しています。小さめの練り切りを3つほど入れると程良いと思います。


室瀬智彌 日本工芸会新人賞

乾漆合子「風はどこから」

今回の作品では、吹き抜ける初夏の風とざわめくもみじの枝々の様子を、心象表現としてあらわすことを試みました。素地は乾漆で、張りのある八角形の被蓋造としています。器表には、金丸粉、青金丸粉、金平目粉、乾漆粉を併用した研出蒔絵で吹き抜ける風を表現し、金平文のもみじの実を配しました。今も昔もきっと変わらないであろう初夏の風の、心が洗われるような爽やかさ、うねりと力強さ、木々を照らす陽光のきらめきなど、心に残っている情景・印象を、漆で形にできればと思い制作しました。


井尾紘一

Whirl Boat Vessel

一枚の金属板を金鎚で叩いて成形する「鍛金」の技法で制作した舟形の作品です。楕円形に切り出した、銅と金の合金である赤銅(しゃくどう―この作品の場合銅97%に金3%)の1.2mm厚板を素材に、金鎚用いて当て金という道具の上で叩いて形作っていきました。叩かれると硬くなる金属を火で熱し、柔らかくする「焼き鈍し(なまし)」をはさみながら繰り返し叩いて成形していくと、平たい板が少しずつ立体化していきます。
この技法では形の外側と内側が同時に、表裏一体で成形されます。私は鍛金のこのプロセスに魅力を感じ制作をしています。この形態の内外の関係性を視覚化したいという興味から、大きな渦模様を立体的にたたき出したのが今回の作品です。器形の外側と内側、見る角度によって大きく印象の異なる形をみていただければ嬉しく思います。


小林暁香

高肉象嵌盒子「飄然」

この度の作品は、盒子というキャンバスの上に、ゆるやかに移ろいゆく、ゆったりとした世界観を表現しました。
具象と抽象の組み合わせ方に頭を悩ませましたが、「静」と「動」を表す二匹の蛙を、高肉象嵌で具象的に表現しました。但し、これら静と動の在りようは、一つ一つが孤高の存在のように孤独にあるのではなく、常にゆったりと変化する「時の流れ」や「空間の流れ」など、多くの大きな変化の中の一場面として存在しています。
静と動が、悠然と、まるで飄々と存在する空間。静と動を、ゆるやかに繋ぐ無常観あふれる背景。それらを、波や水泡という形を以て、平象嵌や線象嵌・梨子地象嵌で抽象的に表現しました。
とぼけた蛙を見ていると肩の力が抜けてしまいそうな世界観。世の中の変化を、全て受け入れてしまいたくなるような世界観。それを金属という素材で、いかに表現しているか、ご覧頂ければ幸いです。


鈴木しおり

木芯桐塑木目込「晩夏」

大正生まれの母は、日常着はほとんど着物でした。琴を教えていたので、出入りする人も私も、子供の頃より親しんでいました。和服の美しさと、季節を問わず着られ端布になるまで使い切る合理性に惹かれ、テーマを生活の中に求め、切り取ってきました。今回の「晩夏」は、ほっと一息ついて安らいでいる夫人を作りました。夏の暑さが少し和らいだ頃、庭先で作る野菜も実り、腰かけてひと休み。布は昨年亡くなった人形の師匠伊藤三枝先生の遺品です。面白い様にピッタリの布が次々と見つかりました。テーマを決めた時ヒザの上の竹ザルの出来如何と思い、竹ヒゴを薄く細くする作業から入りました。家にあった古いザルを分解したのです。縁台も作りましたが、人形部の研究会の折、「人形が生きない」とご指導を受け、シンプルな形の桐箱を作り、台と合わせて着色しました。桐塑で作った野菜の着色は紀州彩煙墨です。ヘタは繭を使いました。母の介護をしながら工芸展の応募回数も12回となりました。入選できて、正直ほっとしています。ありがとうございました。


佐々木玲子

階調文様硝子鉢

この作品は、影を含んだ秋や冬の光の雰囲気を表したいと思い制作しました。
ガラスの粉で意図的に濃淡のグラデーションを作ることで作品に影と光を取り込めるのではないかと思い、現在の粉を降る方法で模索しています。
制作において、ガラスの粉と板を一緒に焼成する時に、粉に含まれる小さな空気が集まり、板をお餅のように膨らませてしまうことがあります。それを防ぐ方法はその時々の図案によって変わるので、毎回ハラハラしながら電気炉の中を覗き込み調整します。
こうしてできた模様のガラス板を研磨した後、型に載せて再び焼成して鉢の形に成形します。その後外側を仕上げるのですが、今回は外側から見た時の白いガラス粒の印象を内と合わせるために、艶消しにしました。


土平啞倭子

有線七宝蓋物

この度、本展入選という長年の夢が叶い大変嬉しく思っております。
今回の作品は「茜雲」という題名で、早春の夕方散歩していましたら、こぶしの木が垂れ下がりその向こうに、うっすらと夕焼け雲が見えて、いい感じだなと思い写真を撮りました。その風景をアレンジして作品にしたものです。
こぶしの枝の線をたてるのに苦労しました。枝はだんだん先を細くしなければならないのに、太くなったり、幹の感じがすっとなってこぶしの枝じゃないようになり、何度もやり直しました。四角の蓋物の胎は自分で叩いて作りました。色も自分で釉薬を焙烙合わせで作ります。七宝は出来上がるまで時間がかかります。原画が決まると半分出来たようなものですが、それからは職人技で線をたてたり、色作り、色差し、ひたすら作り上げる作業ですが、こつこつとその作業時間が好きです。


鍋田尚男

モザイク硝子花器「薄氷」

板ガラスを切断し溶着する技法で制作しています。
焼成を何度も繰り返す事で徐々に形になっていきます。
本作品は氷の上にうっすらと雪が積もりシャーベット状になっている半透明な氷をイメージしました。
私の工房の周辺は自然が豊かで四季を通じて様々な綺麗な風景が見られます。
「薄氷」も冬の川辺でよく目にする現象の一つです。
そんな美しさを表現出来ればと思い制作しました。


松本幸枝

有線七宝香炉「夜雨の月」

雨降る夜の街のあかりをイメージしました。常々工芸展入選の難しさを耳にしておりましたので、雨の夜に見ることのできない月に、入選への思いを重ねました。
デザインは、どの角度からみても違った景色がみえるよう、色からも雨のリズム感じられるよう気を配りました。
形については、自分が意図したことが表現できたのか、悩むところでありました。今後も課題となりそうです。
制作ごとに自分の技術のつたなさ、経験の浅さを思い知り、学ばなくてはならないことが多くあることを身にしみて感じております。そのため、今度の入選は大変うれしく、いつも支えてくださる方々に襟を正し、なお一層精進してまいりたいと思います。